40 古風ね

「あいつさー、星多に告白されてから、変わったのよね」


「そう、なのか?」


「そうなのよ」



 昼休み、星多は愛想美と二人向かい合わせで弁当を広げていた。


 きっと上の階の三年生のクラスでは、凛々花とツナも同じように弁当をつついているだろう。


 今日の弁当当番はツナだったので、なかなかうまい。


 明日は凛々花がつくる予定だ、心しておこう。



「ツナってさー、まじですさんでいて、氷みたいな奴だったじゃない? なんかもう、この世に自分を必要としている人間なんていないんだーって感じでさ。みんな滅んじゃえー、みたいな。私もいろいろ仲良くしようとしてたけど、心開かなくてさ。もう、首にしてくれとばかりにさ、ばあちゃんの目の前でわざとあたしに暴力振るったりして。あれ、自分から破滅しようとしてたのよきっと。それがよ、あんたごときに告白されただけで、こう、なんていうか、次の日から、表情が違うのよね」


「そうなんか」


「うん。なんかね、こう、なんていうの、だんだん冗談とかいうようになって、暴力もきっぱりなくなって。嬉しかったんじゃないかなあ、たぶん。ものすごく。きっと他人に好きだって言われたの、生まれて初めてだったんだよ」


「嬉しかったならOKしてくれればよかったのに」



 悔しそうに星多が言うと、愛想美は、



「嬉しいのとあんたとつきあってもいいのとは別だしね。嬉しかったけどあんたと付き合うのは嫌だったんじゃない?」と正論を吐く。



 ぐうの音も出ない。まったく、実に憎たらしいことを言う義妹だ。



「ツナの中でなにがあったかは知らないんだけどさ。そりゃ、少しは予想はできるけど。あんたに告白されてから性格がどんどん明るくなってさ。あたしも最初は年上だからユキさんって呼んでたけど、ほんとに仲良くなってツナって言うようになったの、あの頃よ」


「なるほどなあ。フラれてからはユキさんの話、なるべくお前に訊かないようにしてたから知らなかったぜ。まあ、ニックネームなんてその時その時でかわるからいいけど」



 愛想美は昆布巻きにかじりつき、



「でもまだユキさんって呼ぶ人もいるよ、ほとんど古参だけど」


「へえ、そうなのか。それより、ユキさん――ツナさんが高校に通う気になってくれて嬉しいよ俺は」


「あたしも良かったと思う。で、どうすんの。ばあちゃん、一応前言撤回して、本人の許可なくして襲うことまかりならん、っていってたけど、あれってさ、……本人がいいなら別に襲ってもいいよ、ってことだよね? 誰か、襲うの? ツナも、凛々花先輩も、今なら、わりとOKだと思うけど」


「いいや、そんなことはしねえよ」



 星多はきっぱり言う。



「決めたんだ、絶対そんなことしない。俺のプライドの問題もあるしな。そうだな、俺が一人前になったら、そのとき改めて告白するよ。今は、勉強だ」



 ふふん、と愛想美は笑って、「古風ね」と言った。




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