26. 巨乳がだっぶんだっぶん

 星多と愛想美の部屋は増築された離れにあり、トイレはだだっぴろい日本家屋の母屋にある。その上、まだこの家に慣れてない星多は、少しでもこの家のつくりを知っておこうと、寄り道していろいろな部屋を見て回った。そのせいで、トイレに行くだけでかなりの時間がかかってしまった。

 住み込みのお手伝いさん用の部屋も母屋にあり、大黒やツナや凛々花の部屋らしきドアが並んでいた場所もあった。

 しかし、土地が比較的安い地方都市とはいえ、よくもまあこんなに広い家を建てたものだ。

 軽い探検を終えて自室に戻ると、そこでは想像を超えた光景が繰り広げられていた。

 というか、ドアを開ける前から、いやな予感はしていたのだ。

 なにやら不穏な機械音が、床を伝って足に響いてきていたのである。

 あいつら、絶対ろくでもないことしてる。

 そんな確信をもって、おそるおそる、ドアを開ける。

 すると。


 ヴインヴインヴインヴイン!


 騒々しい音とともに、うら若きメイド、つまり凛々花が、


「んは、ぁん、んはん……」


 と、乗馬マシンの上で喘いでいるのである。

 もう、ほんと、意味がわからん。

 目を閉じ、眉を寄せて悩ましげな吐息を漏らしながら上下運動する凛々花。

 長くて艶やかな黒髪が、空中に舞い踊る。

 黒いスカートが遊泳するクラゲのように膨らんでは閉じ膨らんでは閉じを繰り返す。

 そのたびに白いニーハイソックスに包まれた凛々花の引き締まった太股が見え、そしてそしてちらりと見える、白い布。

 これは、ドロワーズッ!

 リアルで見るのはもちろん生まれて初めて。

 というか、このメイド服、下着まで完璧にメイドなんだな、って待て、そうだ、ドロワーズは下着だ、もしかしてその下にもパンツはいてるのかもしれんけど、でも基本下着だ、つまり今俺はッ! 凛々花先輩が喘ぎながら見せている下着をッ! 目にしているゥッ!

 っていうか、なにこの状況!


「これは……いわゆる……乗馬マシン、だよな……?」


 凛々花が、いつの間にか運び込まれていた乗馬マシンに乗っているのだ。

 メイドスカートとメイドエプロンドレスをヒラヒラフワリと靡かせ、純白のメイドドロワーズを覗かせながら、なんていうかこう、想像のしようによってはとても卑猥にも見える苦しげな表情で、乗馬運動をしている。

 凛々花の小ぶりなヒップが上下前後に動く様がまたエロい。

 ここは星多の部屋、さきほどまで三次関数の参考書とにらめっこしていたというのに。

 もはや、サイケデリックを通り越して、サイコホラーである。

 メイドが眉を八の字に寄せ、その額から汗が飛び散る。

 ああ、あの汗を浴びたい!

 目が合った。

 凛々花も自分のはしたない姿を自覚しているのだろう、見る間に顔を赤くする。

 羞恥の混じった表情で、


「だ、だめぇっ……やっぱり、見ちゃだめえぇぇ!!」


 ヴインヴインヴインヴイン。


「と、止めて、止めてぇ……いやぁ!」


 ヴインヴインヴインヴイン。


「やだ……これ、どうしたら、と、とまりゅのおおお!?」


 ヴインヴインヴインヴイン。


「やん、ぁん、やめ、もう、私、ぁん、駄目なにょおお!」


 凛々花は手を伸ばして機械を止めようとするが、その操作は本人の意図と逆方向のスイッチだったしく。


 ヴイヴイヴイヴイヴヴヴヴヴヴ!!


 乗馬マシーンの動きはさらに速く強くなる。


「とぉめぇぇてえぇぇぇ」


 もうここまでくると淫靡でもエロくもなくなってきた。

 予想外の壮絶な光景に身体を硬直させてしまっていた星多だったが、


「ももももももむむむむむむむりりりりりり」


 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴイーン!


「ゆるひてええええええ」


 このままでは憧れの先輩が舌を噛んでしまいそうだ。

 手を伸ばし、乗馬マシンのスイッチを切る。


 ヴヴヴ、ヴインヴイン、ヴイ……。


 ようやく、暴れ馬がおとなしくなった。


「と、止まった……へへへ、ふはあ……」


 凛々花はよろよろとマシンから降りると、たぶん怖いのと恥ずかしいのとがないまぜになったせいだろう、真っ赤に充血した目で星多を見ると、


「えひぇ……」


 笑い声なのか泣き声なのか判別しがたい声を出す。

 っていうか、その唇の端からちょっと涎たれてるんですけど!

 なんか、俺の太陽の女神様にして愛の天使が、堕天しちゃった……。

 まずいだろ、その顔。とろけてるんですけど。真夏の日差しの下のソフトクリームみたいな表情なんですけど。

 いや、でも清純を捨ててしまった堕天使ってのもなかなか悪くないかも……。

 などとくだらんことを考えてる間にも、その明らかにイっちゃってる表情をした凛々花はふらふらと星多のベッドへと向かうと、ぽすん、と倒れ込み、そのまま動かなくなった。

 そんな凛々花のようすを後ろから見ていたトロピカルビキニが親指をグッ! と立て、


「よかったわよ、凛々花ビッチちゃん。これは完璧に心と下半身をとらえたと思うわ」

「っていうかなんだよ意味分かんねえよ! どっから持ってきたんだよこれ、なにがしたいんだ!」


 そんな星多の叫びを無視して、


「今度は私の番ね」


 かわって一人南国ビーチ娘、ツナが乗馬マシンに跨る。


「はんっ」


 目があった星多になにやら演技めいた見下しの笑みを見せると、スイッチオン。

 ヴインヴインヴインヴイン!

 だっぶんだっぶんだっぶん!

 星多の、そしてたぶん本人の望んだ通りに、揺れるのだった。

 Hカップが。

 上下に。

 だっぶんだっぶんだっぶん!

 十代女子の身体から決して発してはいけないような音を放って。

 ……なにこれ、ここはどこだ、俺は誰だ、あのでかいマシュマロはなんだ。

 強烈な目眩に襲われる。

 弱冠十六歳、多感な高校二年生男子の星多がその場で崩れ落ちるように膝をついてしまったのを誰が責められようか。

 その際、反射的にツナから目線を切ってしまった。

 そのことに対して星多は一生の後悔を覚えることになる。

 乗馬マシンはそもそも、セパレート水着を身につけて使用するものではない。


「こ、これは確かに、効くわね……あ、は、はずれる……、お、落ちた」


 落ちた? なにが? 

 次の瞬間、星多の目の前の床にはらりと降ってきたのは……。

 赤いバラの模様の、小さな布切れ。

 そう、つい今まで、満開に咲いた少女の胸を覆っていた、ビキニのトップス。

 この布がここにあるということは、今現在、ツナのHカップな巨大バストを隠すものは何もないはずで。


「ま、まさか!?」


 星多が顔をあげるのと、


「み、見るなあああ!」


 後ろから愛想美がツナに抱きついてその胸をちっちゃな手で隠すのは同時であった。

 実に惜しい、顔をあげるのがあとゼロコンマ一秒でも早かったならば! 星多は見ることができたはずなのだ、世界遺産にも匹敵する、大自然が作り出した人間の美少女の素晴らしきおっぱい、その核心部分を! 

 ユネスコは世界遺産認定のためにツナのおっぱいをいますぐ調査すべきだ、そして俺も調査員に加えてくれ! Hカップを調査しつくしたいってか俺はなにを言ってるんだ。

 ところで、愛想美が背後から手ブラしてくれたおかげで、ツナは乙女ならば決して男には見せていけない部分を星多に見られることからは逃れたのだが。

 だがしかし、状況は混乱の度を増していた。

 なにせ、愛想美の小さな身体は定員一人なはずの乗馬マシンに二人乗りを許したのだ。

 つまり、今星多の目の前では、上半身裸Hカップが手ブラされたまま、上下運動を続けているのだった。

 ツナの身体の後ろで愛想美の長いふわふわの髪がバッサバッサとはばたく。

 さすがにこの状態のヤバさに動揺してるのか、顔を焦りと恥辱で歪ませるツナ、その大きな胸は愛想美の小さな手でてっぺんのあたりをやっとのことで隠されており、その愛想美の手ごと、だっぶんだっぶん! とHカップが形をたわませながら揺れ、そんなツナの身体に愛想美の髪の毛が触手のようにまとわりつく。


「さすがに、こ、これは、ちょ、ちょっと、見ないでほしいわね……、お嬢様、あんまりくっつかれると……く、手、手がスイッチに届かない……!?」

「馬鹿ツナ、私がくっついてるから見られずにすんでるんだから!」


 普通に生きてると一生拝めないであろう光景を前に、星多は視線を奪われてしまって頭が真っ白になっていた。

 そんな星多に愛想美が叫ぶ。


「こらあっ! 馬鹿エロ星多! 止めなさい! と・め・な・さ・あ・い!」


 止めろといわれても、あまりにあまりなので、今度は近づくのも、なんというか、怖い。

 ので、二人に背を向け、乗馬マシーンから延びたコードをつたって壁のコンセントへ。

 無言で、コンセントを抜いた。


 ヴイ、ヴイ、ヴヴ……。


 電力を失った乗馬マシーンが、その動きを止める。

 久々の、平和な静寂が部屋に訪れた。


「はあ、はあ、はあ……」

「ふう、ふう、ふう……」


 ツナと愛想美の荒い呼吸の音だけが聞こえる。


「まだよ、変態星多、まだ振り向いちゃだめよ。ほらツナ、私がつけてあげるからちょっと後ろ向きなさい。あ、これ紐が切れちゃってる……どうしよう……あ、これ使えそうね、ちょっと待ってて……。うん、いいわ、これで胸を隠しなさい」

「申し訳ございません、お嬢様……私の胸が大きいばかりに……お嬢様並に小さかったらこんなことには」

「あんた、ボトムスの紐も切るわよ。あと、小さい方がこういうの外れやすいのよ、ひっかかりがないからずれちゃうの」


 うーん、なかなか生々しい会話ではある。

 二人に背を向けたままの星多の頭の中で、いろんな妄想が超新星爆発のごとき輝きとともにスパークしていたのは言うまでもない。


「さ、もういいわよ、星多、とりあえずあんたこっち向いていいから。この機械、ほんとろくでもないわね、あんたが大黒さんの部屋に返しておいて。ちょっと借りただけだから」

「俺が持っていくのかよ。それにこれ大黒さんのなのか」


 そう言いながら振り向くと。

 ああもう、この一時間で星多は何度驚けばいいというのだろう。

 ビキニのトップスの紐が切れてしまった、というのだから、何かほかの布で代替したのだろうな、とは思ったが。

 まさか、それがいまだベッドに倒れている凛々花からはぎとったのだろう、真っ白なエプロンドレスだとは。

 ツナは一応下半身の水着はつけたままなので、裸エプロンではない。でも、半裸エプロンではあった。なんだそりゃ。

 真っ白なフリルヒラヒラのエプロンドレスは、ツナのHカップでパッツンパッツンになっている。布が、足りないのだ。当然、胸の盛り上がりの裾野はしっかり視認できる。

 豊満なバストが作り出す谷間、ああ、ほんとに生々しい。

 女の子の「肉」って、なんでこうも……グッとくるのだろう。

 いつも冷静な表情を崩さないツナが、今だけは紅を差したかのようになった頬を悔しそうに膨らませて横を向いた。やっぱり恥ずかしかったのだろう。

 ところで横を向いているということは、今度はエプロンの隙間からHカップの横乳が見えるわけで、それは言うまでもなくとても肉感的でエロいわけで、このままだと星多は血液の循環が滞って貧血で倒れてしまいそうだ。


「ええと、なんていうか、とりあえず、三人とも、お疲れ」


 とだけ言うと、星多は乗馬マシンをかかえ、逃げるように大黒の部屋へと向かった。

 正直言うと、この魔空間から早く抜け出したかった。

 健康な男子高校生として、なかなかに刺激的ではあったけど、このままここにいたら健康でなくなりそうだ。

 医学部、無理っぽいな、とクソ重たい乗馬マシンを抱えながら星多は思うのであった。



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