16. 準備ができたら、ヤります
のしのしと巨体を揺らして
湯船から湯おけでざばっと豪快に身体を流すと、浴槽にダブン! と入ってくる。
お湯が大量に溢れでて、排水口へと消えていく。
銭湯なみに広いはずの浴槽が、ものすごく狭く感じられた。
「若者たち、仲良く裸のつきあいしてんだねえ! いいことだ! あはは」
「大黒さんもお仕事終わりですか?」
凛々花が聞くと、
「あははっそう! っていうか、一つ屋根の下で暮らすんだから、名前で呼んでいいよ、私、美由紀っていうんだ、美由紀ねえさんとか、そうそう、彼氏にはミルフィーユって呼ばれてるよ! あんたもそう呼んでいいよ」
大黒は大黒様のような笑顔でそう言う。
「いえ、大黒さんでいいです……」
「そうお? ミルフィーユって、結構気に入ってるんだけどなあ。彼氏以外、誰もそう呼んでくれないんだよねえ、あはは」
大黒美由紀、ミルフィーユ。
凛々花が連想したのはバラ肉を重ねたミルフィーユトンカツだったけど、さすがにそれは言えない。
それはそうと、彼氏いるんだ……。
そんな会話をしている凛々花と大黒を尻目に、
「じゃ、あたしはあがるわ。眠れなくて温まりにきただけだから」
愛想美はそういって、浴槽からでていく。その身体がちっちゃくて、大黒とは対照的だ。
というか、愛想美が出たのに、浴槽のお湯はほとんど減らない。
この子、本当に子供みたい……。
感心していても仕方がない、凛々花もそろそろのぼせそうなほどお湯につかっている。
「じゃ、私も身体洗ってから、部屋に戻ります」
ぴた、と愛想美のちんちくりんの身体が動きを止めた。
「……え……凛々花先輩、身体洗うってまさか……さっきの話……今から!?」
凛々花は、ん? とちょっと考えた。で、その意味に気づいて、
「ちがっ! きょ、今日は寝ます。ふつうに、寝ます。でも、でもそのうち、ええと、準備ができたら、ヤりますから!」
愛想美は実に微妙な表情をして、
「やめといたほうがいいよ、変だよ、おかしいよ、普通に考えてあり得ないんだけど」
「普通にしていて、お父さんやお母さんや妹を助けられません。普通じゃないけど、私だけが普通じゃなくなれば、みんな普通に幸せになれるんならそれでいいんです」
「…………ふん、勝手にすれば」
愛想美は不機嫌に言うと、浴室から出ていく。
その後姿を見ながら大黒が、
「あっはっは、何の話だかわかんないけど、ま、仲良くやりなねー? あ、そうそう、凛々花さん、あなた携帯とか持ってる?」
「あ、いえ。解約しちゃいました」
「じゃあさ、ちょっと前まで他の人が使ってた仕事用の携帯あるから、しばらくそれ使いなよ。料金は会社持ちだから心配しないで。なんかあった時、すぐに連絡つかないと不便だからね。ガラケーだけど、あるとあなたも便利でしょ?」
「はい、ありがとうございます」
「いやあ、それにしても、若い人が多くなったねえ。若者と一緒に住んでると、私まで若返る気がしていいね。あはは、よろしくねえ」
大黒はゆったりと浴槽につかりながら、のんびりとそう言うのだった。
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