24. たゆんたゆん、と揺れる。揺れまくる。

 赤いバラ模様の、セパレートビキニ。パレオも同じ柄で、ポニーテールにしている髪を飾る髪飾りはピンク色のバラの花。見事な統一感である。

 ワイキキビーチにぴったりの、素晴らしい着こなしだ。

 トレイに乗せているドリンクは、やっぱりトロピカルな蛍光色のジュースで、グルグル渦を描くストローがささっている。

 ツナが歩くたびに、なんというか、ツナの胸にあるでっかいスイカみたいな二つの球体が、たゆんたゆん、と揺れる。揺れまくる。

 あまりに見事な揺れ方で、星多だけじゃなく、凛々花と愛想美も目を見開いて見つめている。


「さ、冷たいジュースでございます、小僧」


 星多の手元に毒々しいハワイアンブルーのドリンクを置くツナ。

 小僧という呼び方はもはや確定らしい。

 そしてツナは続けて、


「さ、AAとBの方もどうぞ……失礼、お嬢様と凛々花さんもどうぞ」

「なにその言い間違い!?」


 思わず叫ぶ星多。


「っていうか今の、カップ? カップか? カップなのか!? 愛想美、お前……」


 自然と星多の視線はドレス姿の愛想美のバストへ。

 愛想美はとっさに胸を腕で隠すと、


「Cあるから! C!」と叫ぶ。


 ツナは表情を変えずに、


「あら、お嬢様のお洗濯は下着も含めて私がさせていただいてますのよ。お嬢様、英語の成績がかんばしくないようですね。アルファベットの読み方も知らないとは……」


 凛々花も、胸の前でちょっと手を組んで、


「あの、ツナさん……星多くんの前でそういうのはちょっと……」


 心から不思議そうな様子でツナは首を傾げる。バラの髪飾りが揺れた。


「よくわかりませんが、この間の模試の結果、確か凛々花さんはB判定で、お嬢様はAA判定でしたよね?」

「そっちかよ!」


 ガクっとくるが、ん、待てよ? 愛想美って、AA判定をとれるほどの成績じゃないし、凛々花先輩だって全国四位だ、B判定とっちゃうほどの成績じゃないはず。

 そもそも、


「あれ、最近模試なんてやったっけか」

「はい、おっぱい模試です」

「意味わかんねえ! その模試の試験官させてくれよ!」


 顔を真っ赤にして口をパクパクさせる愛想美と、同じく頬を紅潮させて俯く凛々花。

 なるほど、反応を見る限り、AAとBで間違いなさそうだ。

 そうか、凛々花先輩、Bか……。

 すらりとして細い体つきだし、個人的にはちょうどいいよな……。

 愛想美はAAかよ、貧乳は嫌いじゃないけど、なんか、かわいそう。

 と、すると……。


「あの、そういうご本人は、何判定ですか?」


 試しに、星多はツナに聞いてみる。


「そうですね、わたくしは通信制の高校でほとんど学校行ってませんし、成績悪いですから。たまに先生に勉強教えてもらってはいますが、言うのは恥ずかしいほどの成績です」

「いや、そこをなんとか。ぜひ知りたいんです!」

「そこまでいわれたら仕方がないですね。まあ、H判定、といったところでしょうか」


 H!?

 思わずバラ柄のビキニに包まれたツナの胸を凝視してしまう。

 なるほど、これが、Hカップの……。


「小僧、何を勘違いしてるかわかりませんが、模試の話ですよ?」


 と言いながらも、ツナはビキニトップの布をちょっとつまむ。

 豊満なバストが持ち上がった。そのままふくよかな脂肪をきゅっと包みなおす。プルン、と肉が揺れた。

 その瞬間。

 聞いた。

 星多は、聞いた。

 タップン、と女子のHカップが奏でる至福の音を。

 星多は確かに聞いたのだ!

 女の子のおっぱいは楽器にもなる、ということを、星多は初めて知ったのだった。

 こんなにも人生で役に立たない素敵な知識を得ることはそうそうないであろう。

 そのパッションに満ちあふれたおっぱいパーカッションのサウンドに反応した人物がもう一人。


「う、うらやまし……じゃなくて! ツナ、あんたなんで水着姿なのよ!?」


 愛想美が悔しそうにそう言うのだった。AAとはほんとかわいそう。

 ツナはお盆を小脇に抱えると、もう一方の手を腰にあて、少し身体をひねる。

 そうすると、ツナの身体の凹凸がさらに強調される。

 柔らかそうな胸の果実、くびれた腰のライン、おへそによってできたかすかな縦の線の陰が生々しい。

 星多の目の前に飛び出す3D画像の、Hカップ美少女。

 手を伸ばせば触れそうだ。

 いや、触れるんだけど。

 ま、ほんとに触るわけにはいかないのが悔しいところだ。

 ところが、ツナはこともなげに言う。


「小僧、別に触ってもいいんですよ」


 え、ほんとに? 思わず手が出そうになるが、


「ツナっ! あんた、何言ってんの!」


 愛想美の怒号にびびったのでやめておく。 


「いったいなんなの、ツナ、そんな格好して、どういうつもりよ」

「あら、お嬢様、私がこのお屋敷に初めて参ったとき、自分の家と思っていいわよ、とのお嬢様のお言葉、ありがたくいっときも忘れたことはございません。自分の家で、自分の服を着て悪いことはありませんよね?」

「それ服じゃないじゃん、水着じゃん……」


 呆れた顔でぶつくさ言う愛想美。

 いやもうほんと、なにこれ。

 現実のものとは思えない光景に、星多は混乱の極みである。

 俺はただ、勉強をしていただけなんだ。

 そうだ、苦手な三次関数だ。

 極大値と極小値と変曲点が織りなすグラフの謎を解くのが今の俺がやるべきことなのに。

 お姫様(残念AAカップの極小値)とメイド(慎ましやかなBカップの変曲点)とビキニ水着(驚愕のHカップ、文句なしの極大値)。

 AAとBとHが織りなす女体の謎が、彼女いない歴十六年の星多にわかろうはずもなく、でもぜひ解いてみたいんですけども、ダメだよな?

 ビキニのツナは、なんか数十秒ごとにいちいちポーズを変えて見せつけてくる。

 ほんと、この人こういう性格だっけか?

 頭が混乱しすぎて、どうしようもない。


「あの、俺、ちょっとトイレ……」


 星多はいったん、その場を離れて心を落ち着かせることにした。




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