23. おとぎ話に出てくるような
そう、おとぎ話に出てくるような、超豪華で超ヒラヒラで、なんだか知らんけどあちこちに光る宝石が装飾されている、マジな感じのドレス。しかも、ティアラ付きだ。
ティアラ!
ローマの休日で、オードリーヘップバーンがつけてるような、あのキラキラの冠だ。
窓から差し込む日の光に反射して、目に眩しい。
そして、星多を挟んで凛々花と反対側にそれをドン! と置き、ドスン! と座る。
お姫様は、ジロリ、と吊り目がちな瞳を星多に向け、
「あたしも勉強」と言った。
「いやいやいやいや!
「なによ、ここはあたしの家で、これはあたしの服よ。あたしが自分の家で好きな格好して、何が悪いの?」
「だってお前さっきまで、寝癖ボサボサのジャージ姿だったじゃないかよ! それに、そのティアラ……宝石、本物?」
愛想美はよくぞ訊いてくれた! とばかりの得意そうな笑みを浮かべ、
「そうよ、亡くなったママの形見なの。結婚式の時つけてたんだって。あたしも結婚式の時はこれつけてウェディングドレス着るんだ」
「いや、今は結婚式じゃないだろ……」
もう、何からつっこんだらいいかわからない。
こいつは産まれた時から金持ちだし、たまに財界人が集まるパーティとかもあるらしいし、こういうドレスとかも持っているのだろうが、しかし、何の変哲もない休日の午後に、これから勉強するっていう服装ではない。
「ま、ほら、凛々花先輩のメイド服、とても似合っていてかわいいし、なんか女として悔しいから対抗してみた」
「なんで昼間っからコスプレ大会が始まっているんだよ……」
「これは本物のドレスなんだから! コスプレだなんて失礼なこといわないでよね!」
愛想美が口を尖らせて言うと、凛々花も、
「わ、私もこれ、制服ですから、コスプレというわけでは……」と言う。
「さ、いいから勉強しましょ。凛々花先輩、わからないことがあったら教えてね」
「は、はい、お嬢様……」
「お嬢様はやめてって言ってるでしょ!」
「はい、愛想美さん。それに、星多くんも。勉強しましょうか」
そんなわけで、メイドとお姫様に挟まれ、星多は再び三次関数と向き合うことになった。
なったのだが、それも十秒ほどで終わった。
もう一人の闖入者がやってきたからだ。
そいつは、ノックはしたものの、返事も待たずに部屋へ入ってきた。
最初、それが誰だかはわからなかった。
愛想美の場合は変な格好してるとはいえ、身体の小ささと量の多い髪の毛で、あ、愛想美だな、とわかった。
でも今度はそうはいかない。
今この家にいる若い女子はほかにはいないはずなので、消去法で、まあツナなんだろうなとは思ったけど。
しかしまあ、その服装が。
いや、これ、服装といっていいのか?
さきほどまで着ていた女給姿ではなかったのだ。
えーと。
「ト、トロピカル?」
星多は思わず呟いてしまった。
「お勉強、大変でしょう。お飲物をお持ちいたしましたわ」
すました表情のツナの格好は、……水着だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます