41 面白いから

「はい、血圧安定してますよ」



 今日もパンダみたいな格好の大黒が、ばあちゃんの血圧を計り終えて言った。



「おかしいのう、最近血圧があがることばっかなのにのお」


「健康一番ですよ!」



 がっはっはっは、と大黒は愉快そうに笑う。



「でもまー、星多さん、見事な土下座でしたね。あれ、足なめろと言ったらほんとになめたと思いますよ」


「男が恥を忍んであそこまでやったんだ、学校通うべき年齢のガキどもを学校に行かせるくらいはやってもええだろ」



 ばあちゃんがそう言うと、隣で正座していたスーツ姿の女性が、口を挟む。



「当たり前です。昭和の時代じゃないんですから子育てを学ぶのはもっとあとからでいいです。ユキちゃんは普通に学校に通わせるのが一番ですよ。いつそうなってもいいように、私が勉強みてあげてたのに、突然あんなことするなんて、奥様は独善すぎです」


「まあのお。本人にそのつもりがないんかと思ってたわ。だったらもう、子育て覚えさせて、あとはおれがどっかからいい婿探してやればええとおもっとった」


「ほんと、昭和ですね。ユキちゃんのお父さんの会社があんなことになって、ひとりぼっちになっていたユキちゃんをここに紹介したのは父と私なんですからね。私は妹だと思ってますから。あんまり私を怒らせると、こないだのあの税務処理の件……」


「わかったわかった、税理士の先生にはかなわんわ。先生の親父さんも厳しかったが、後を継いだ先生も厳しいのう。ま、ええじゃろ、それに、星多のあの必死な顔、星多のじいさんそっくりだったしのお」


「え。知ってるんですか」



 税理士の女性が驚いたように訊く。



「ああ、おれの旦那とおれを巡っていろいろあったんだ。あれで不幸にしちまったと思う。おれが悪かったんだ、あっちへふらふら、こっちへふらふらな。昔好いとった男の孫だ、おれにとっても、星多は大事な孫みてなもんだすけな。愛想美とくっついてくれると、長年の胸のつっかえがとれるんだども」



 それを聞いて大黒は楽しそうに、



「なるほど、でも愛想美さん立ち位置的に難しいかな、幼なじみは負けフラグですからね」


「フラグってなんだや」


「さあ、なんでしょう。面白いから私は黙って見てますよ」


「勉学に支障ない程度に恋愛ごっこしてるとええわ、あいつらウブだから無理かもしれんが、めんどくせえからまぐわっちまえばええのにな」


「あはは、そうですね」と大黒。


「いいえ、今は勉学の時期です」と税理士。



 今日も穏やかに時間が過ぎていく。


 初夏の日、うぐいすが平和に歌っていた。




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