13. ベッドの上で

 星多はベッドの上で、さきほど見た凛々花の笑顔を思い出す。

 なんだか知らないけど、今は凛々花先輩、俺のメイドなんだ。

 ばあちゃんは、なにやってもいいって言ってた。

 もう凛々花先輩は俺のモノってことか、はは、夢みたいだな、凛々花先輩に俺のやってもらいたいこと、全部してもらおう。

 ――ふふふふふ、男のロマンだ、あはははは、いいね。

 そして、考える。

 先輩はどう思っているんだろう?

 家族のために高校を退学してまで住み込みの仕事を始め、そしてその就職先は超絶ブラック企業、妹を進学させたきゃ我が身をすべて捧げろとまで言われる始末。

 そりゃ、怖いだろうな。嫌だろう、悲しいだろう、でも妹を人質にとられてるようなもんだから従わないわけにはいかないかもしれない。

 仮入部のとき、新人が入ってきたことにガッツポーズまでとって喜んでいた先輩。

 筆を持つ星多の手を細くてしなやかな指で包んで、運筆の仕方を教えてくれた先輩。

 凛々花があまりにも眩しくて、まともに会話もできなくなっている星多に、とりとめのない話をいっぱいしてくれた。

 ときには墨を擦ることもなく、おしゃべりだけで終わった日もあったっけ。こっちは相づちを打つのが精一杯だったけど。

 ばあちゃんが本気であんなことを言ってたんだとしたら、俺は今からでも凛々花先輩の部屋に押し入って、好きなようにしていいはずだ。

 好きな人を好きにする。……それって、なんの意味があるんだ?

 好きなように凛々花先輩を扱って、その泣き顔を見て、俺は幸福感に包まれるだろうか?

 違う。断じて、違う。

 俺が凛々花先輩にしてもらいたいこと。

 それは、つい先日までのように、輝く太陽のような笑顔で、あのからかうような口調を聞かせてもらうこと。

 できればあの学校のあの部室で、未来が無限に広がっている一七歳の女子高校生として、俺に話しかけてもらいたい。

 それこそが凛々花先輩に求めること。じゃなかったら、俺が凛々花先輩を好きな意味がない。

 俺は、凛々花先輩に笑っていてもらいたいんだ。


「これ以上、先輩を不幸になんて、絶対にさせない」


 天井を睨みつけながら星多はひとり、呟いた。


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