20. そんなに子供産ませたいんかね?

「――ああ、そうだ」


 その日の昼前。ばあちゃんは誰かと電話で話していた。つい最近まで会社の本社機能があった事務室。社員は皆東京の新社屋に移り、今はばあちゃん以外、誰もいない。


「どっちも十七歳だ。素直でいい娘だ。


 ――ああ、もう十分大人だわね。身体も健康だし、大丈夫だろ。


 ――ん? それは心配ねえ。どっちも、親が借金あるからの。どうとでもなるわいね。学校も行ってねえしの。しっかし、お前もそんなに子供産ませたいんかね? 産むのも育てるのも女子おなご任せで。


 ――ああ、わかっとるよ、お前の仕事が忙しいのは。子作りする暇はあるみたいだけどな。ほっほ。


 ――ああ。一人は子供の頃からおれが仕込んでやったやつだし、一人はうちに来たのは最近だけども、なかなかの娘だわ。二人とも見てくれもええしな、お前好みだと思うわ、ほっほ。いや、お前ら好み、と言った方がええか? 壊さんでくれよな、ははは。


 ――心配ねえってば。親には金握らせればええ。どうせ女なら、いつかは経験しなきゃなんねえことだ。早いか遅いかだわ。


 ――だいたい、おれの時代でも、あの歳で奉公に出るのは当たり前だったし、嫁に行く奴もいたわ。


 ――ん? ――ははは、そう、めかけになるやつもいたわ。そればっかりはな、本人が選ぶとかじゃないからな、女は受け入れねばなんねかった。


 ――時代が変わっても、金がなきゃ女ってのはな、やることかわんねえもんだ。あいつら二人にも、いい勉強になるわ。お前も、きちんと教えこんでやれよ。何をどうしたらええかわかんねえ未通娘おぼこだからな、ゆっくりと教えこんでやれ。


 ――ん。ああ、そうだな、ああ、細かい金の話は電話じゃちょっとな。ちょうど明日例の会合だ、お前も都合が付けばくるかね? 二人の写真も持って行くぞ。


 ――そうかね。じゃ、詳しい話は明日だ、ちょうど昼飯ができたみたいだ、ライスカレーの匂いがするわ。はは。じゃ、もう切るぞ」


 受話器を置いたばあちゃんは、少し考えこんでから、


「ふっ。十七歳か。今の時代だと、ちと早いかの。……ユキがこの話聞いたら……どうするかのう……? それにしても、ライスカレーにしては、妙に甘い匂いするな」


 と一人呟いた。




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