第10話  魔王領からのお迎え

『 ヨウコソ、此処ココヘ 』と、銀のホールケーキはしゃべったのだ。


 UUUUU。

 は、空中にとどまったまま続けた。

『 サーシェルコク御一行ゴイッコウサマ。ヨウコソ、魔王領マオウリョウヘ 』


「それは通信機器ですぞ!」

 神官が駆け寄ってきた。


 謎の未確認生命体ではなかった。


「害はないのか」

 ちょびヒゲ隊長が剣を収めた。兵士たちもそれにならう。


「ツイテマイレ」

 銀のホールケーキは、空中高く飛び上がった。


 ルッキオたちは移動することとなった。朝食抜きで。



 兵士たちは、さすが兵士たちだ。

 瞬く間にテントを撤収し。焚火に泉の水をかけ。馬にまたがる。


 だが、まだ出立できない。

「どう、どう」

 兵士たちは、馬をいさめる。


「……何待ちなんですか」

「王子の星詠ほしよみ待ち」

「……長くない?」

「せかすわけにも」

「乾パン、食うか?」



 しゃがんでいるルッキオの上では、銀のホールケーキが旋回していた。


「どうか、どうか、御猶予をっ」

 見上げる神官が左のこぶしを右の手で握りしめて懇願している。


(落ち着いてトイレもできん)

 ルッキオの気分は最悪だ。




 戻ると、ナーソーは、もう馬車で待機していた。

 ルッキオは、馬車の床にいるラピスを踏まないように気をつけて席になだれ込み、ナーソーの向かい側に座った。


 ナーソーの小さな目が冷たい。

「王子。トイレ長すぎると集団生活は、やっていけませんよ」


「唯一の癒しの時なんだよ。学舎寮は10人部屋だったから、トイレしか一人になれないんだよ。あとロッカーの中とかしか」


「学院のロッカーですか? あの縦長の」

「あぁ」

「変態ですか」

「狭いところが落ち着くんだよ」

「貧乏性なんですね。王子なのに」

「ほぼ、貧乏で育ったんだよ。城から迎えが来たのが9歳だ」


 がくんと馬車が揺れた。

 出発だ。



 車輪が山路の砂利を踏んでいく。

 軽快なトロットで馬は進んでいる。


「いや、速足って。そんなに、ぼくを魔王の城に早く届けたいか」

 ルッキオは、ナーソーに悪態をついた。


「いや、早く帰りたいだけだと思いますよ」


「意味合い、同じじゃないか」


「場合によっては、全員、帰れないかもしれませんのにね」

 ナーソーが、うすく笑った。


「帰れない?」

「魔王次第では。楽しみですね」

「……お前、性格悪くない?」

 ルッキオは屈託がないので、言ってしまった。


「わたくしどもは、もう帰れない組、決定ですから」

 ふふふと、ナーソーは今度は息で笑ってきた。


 そういえば、ナーソーは王子の従者だから。


「魔王の気分次第では全員残留だと? 父王に報告義務があるだろう?」


「――1名か2名でもいいですよね。その役は」

 ナーソーは口の端を、ひくつかせた。


「そうなの?」


「――『生き残った2名だけ帰してやる。さぁ、殺し合え』と魔王は、サーシェルの者どもに告げた。そして生き残りをかけて、13名は殺し合う。王子と従者を除いた13名のデスゲームが、今、ここに、はじまりを告げる」


「お前、副業でネット小説か何か書いてる?」



 魔王の城には、あっと云う間に着いた。

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