第11話  第6王子一行、砦城に着く

 ナーソーが副業でネット小説を書いているかはともかくとして、 魔王の砦城は険しい山岳の一部のように、そそり立っていた。

 馬車の窓から外を見たルッキオは、すぐに見るのをやめた。

 一行が進んでいる道は馬車にとっては十分な道幅とはいえ、両脇は崖だった。御者が判断を誤れば、谷底へ真っ逆さまにダイブできると思われた。


 銀のホールケーキは、一行の先頭に浮かび先導している模様だ。

 城門が見えたところで、それは、ぎゅんと高度を上げ城の上空高く浮かび上がり、どこかへ下降していった。


 城門は煤色すすいろに鈍く光り、見るからに堅牢。びょうが打ちまくられている。


 城門の跳ね橋が降ろされるのを、第6王子一行は待った。

 橋の床板しょうばんの外端に繋がれた2本の平行な鎖が、じゃが、じゃが、じゃがと鈍い音を立て、床板しょうばんが降りてくる。鎖は門上部の壁の2つの開口部を通り、城門内にあるウインチ(回転ハンドル)で降ろしているのだろう。

 サーシェルのような小国でも、その仕組みは変わらない。

 ここだけ見れば、魔王の国にサーシェルが劣るとは思えないのだが。


(いや、待て。ここは単なる砦城だった)


 それに、あの銀のホールケーキ。あれは、サーシェルにはないものだ。


 どぉ。

 橋の床板しょうばんが完全に降りた。


 ちょびヒゲ隊長が真っ先に馬を進め、橋の真ん中まで来たところで、一行に『ついて来い』と左手を真横に挙げ90度、ひじを曲げた。


 ついに、第6王子一行は魔王の砦城に入城する。

 時に推定10時前。

 しちさん君(役人)は、あとで報告書に書くために時間を記憶したことだろう。


 城壁は分厚い。

「あ。落とし格子こうしが設置されていますね」

 ナーソーが、馬車の窓にへばりついて確認していた。


「たいてい、落とし格子こうし2枚セットで使用されるのです。どうしてだかわかりますか?」


 城好きかい。


「まず内側の落とし格子こうしを降下させて、次に外側の落とし格子こうしを降下することで、侵入してきた敵を閉じ込めるんだろ」

 ルッキオは、さらりと答える。

 この辺りは、築城術の講義で学ぶ。


「御名答。閉じ込めた敵には、天井に設置した殺人こうや屋上から、燃えた薪、熱した砂、熱湯などを投下し、側面の狭間はざまからはいしゆみなどによって殲滅せんめつさせるのです」


 先頭に隊長を含む5騎、その後ろに神官と役人と神官助手の乗った荷馬車、王子の馬車、最後尾を守る5騎の順番で、まさに城壁の厚みを今、通り抜けていく。

 一行が完全に通り抜けたところで、後ろで、がしゃんと落とし格子こうしが落とされた。


「閉じ込められはしなかったですね」

 ナーソーは残念そうだ。


「大きな意味での、囚われたという状態だと思うよ」

 ルッキオは馬車の窓から外を見た。

 

 魔王領の兵士が見えた。落とし格子を操作していたのは、鎖帷子くさりかたびらの魔族たちだった。

 頭巾までも鎖帷子くさりかたびらで、顔のところだけ布のようで、目口鼻をくり抜いてある。

 皆、上背がある。


 こんな兵士に責め立てられたサーシェルが、いっぺんで、『参りました』としたのは正解だ。みんな、無駄死にせずにすんだ。

『死んだほうがましだった』という未来もあるかもしれないが、それはそれ、今は今。


 馬留うまとどめのような場所へ、一行は誘導され留められた。

 ちょびヒゲ隊長が馬車の扉を開けに来てくれた。


(さぁ、終わりのはじまりがはじまる)


 ルッキオは真一文字に口を結んで、馬車の座席から尻を浮かせた。

 床にいるカメのラピスを踏まぬように。

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