第12話  謁見の場


 第6王子一行は、魔王アラスタインの砦城内へ案内された。


 この砦城は小振りながら、城としての機能は、しっかり兼ね備えているようだ。

 ほどほどの距離の廊下を歩いた先に、広間があった。

 

 広間の上座は、暗い色の薄布のとばりがたらされ、向こうに王座が透けて見えた。

 王座に座っているのは――。


 目を凝らしても見えなかった。

 ルッキオたちは、すぐに床に右ひざをついて伏したのもある。


「――魔王よ」

 第6王子一行の中で最も年かさな神官が進み出た。

 まず、口上こうじょうを述べる。


此度こたび、サーシェルに示された魔王さまの恩情、天よりも広く、海よりも深く、しもべは伏して、その御代が永く栄えますことを祈り、わがサーシェルの血筋を参らせたもう。魔王よ――」

 朗々と語り出した。


「サーシェルの子女、魔王のもとに、はべらせ参ることは、両国の絆を、より深く結び深めることを確信致す。この第6王子は、サーシェルのあおい宝玉に例えられる、まさに手中の宝のように育てられた王子。この上は――」


 神官が大ウソ、言っとるがな。

 父王、第6王子を9歳まで放置しとったがな。


 ルッキオは、複雑な面持ちで伏していた。

 まぁ、どうでもいい庶子をよこしたとばれたら、国交問題に発展しそうだから。


 UUUUUU。

 神官の前に、あの銀のホールケーキが降りてきた。


 ぱしゅ。

 水面を魚の尾びれが叩くような音がした。

 ぐらぁと、神官がよろめいた。


「神官さまっ」

 神官助手が駆け寄る。


 神官は、白目をむいてひっくり返っている。


『 前置キハ イイ 』

 銀のホールケーキが言った。


「死んだっ?」

 思わず、ルッキオは屈託なく叫んでしまった。


『 ミネウチ ジャ 』

 銀のホールケーキの声は無機質だ。


「それ、危ないからっ」

 老い先短いじじいになんてことをするんだ。ルッキオは、いきどおった。

 

『 デハ 続キハオ前ニ 聞ク 』

 銀のホールケーキが、ルッキオの前に浮遊してきた。


「え?」


『 見定メテヤロウ オ前ニ価値ガ アルンカ 』


「うわ……」

 ルッキオは、自分は下むいているだけで謁見済むかと思っていた。甘かった。


 な、何か言わねば。

 ルッキオは、必死に言葉をひねり出す。


「……き、貴国と貴国の下僕げぼくであるサーシェルは、新たな秩序形成に向けて一層の精進をお約束する。世の平穏と発展は、わたくしどもが直面する主要な課題。こ、公正で合理的なまつりごとと交流の新たな秩序を構築し、いっそう揺るぎのない関係となることこそ、サーシェルの願いであります。わわわたくしは必ずや、両国の平和を守り発展を促していくかなめとなりましょう。サーシェルの第6王子は、かか必ずや魔王さまのお役に立ちましょう」


 わー、もう何言ってんだか、わからなくなった。


「ふーん。よく口が回る子供だなぁ」

 とばりの向こうから、びりんと鼓膜に響く声がした。

 

「小賢しいのは好きじゃない」


 ばっと、とばりがはらわれた。

 現われたのは、黒ずくめの長身の少年だった。

 ちいさな襟の袖がふくらんだシャツとパンツ。すねに巻いたゲートル。ベストも、巻きつけた帯も靴も、すべて黒だ。


 そして、大きめの手帳くらいの銀の装置から2本出た取っ手を、両の手のひらで握りしめていた。


「……こんとろーらー」

 ナーソーがルッキオの後ろでつぶやいた。


「サーシェルの客人たちよ。戦に負けた途端に丁重なご挨拶、痛み入る。必要はないが、一応は両国の、これからの絆のために自己紹介しておこう。魔王の第6子、アーフェン・ツェッツェだ。この砦城を任されている」


 そう言うと、黒ずくめの少年は、きゅっと靴底を鳴らして90度右を向くと、すたすた部屋から去って行った。


 UUUU。

 その後ろを、銀のホールケーキが低速低空飛行で追って行った。

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