第14話  第6王子一行、企む

 日暮れまでに宿場町に着くためには、もう出立しなければならない。


 砦城の馬留うまどまりへと、第6王子一行は戻った。

 馬車と荷馬車、馬は、そのまま留め置かれていた。

 馬は水と乾草ほしくさを与えられていた。

 さらに、魔人の厩番うまやばんの手のひらから馬は、うれしそうに角砂糖をもらっていた。

 魔人は動物にやさしかった。


「兵士たちは国に戻ります」

 そこにいた魔人にルッキオは告げた。

「あと、荷馬車に神官を乗せたい」


「おーらぃ」


 魔人はサーシェルの言葉がわかるみたいだ。末端の兵士まで異国語が理解できるとは、すごいなぁ。


「あー、来た来た」

 ナーソーが馬車の陰から出て来た。


「ここにいたのか」

 ルッキオは、ほっとした。


「ラピスを残していけませんから。何? 兵士たち帰るんですか? 馬車は残しますよね。ラピスが中にいるんですよ」


「そうだよ。ここにいるのは魔王子で魔王じゃなかった。とりあえず、し、役人さん以外は、みんな帰るって」


「おやおや。予想外。でもない。役人さん、ここへ着くまでも、王子を、銀の飛んでくるやつから身をていして守ったり、死にたがってましたからね」


「そうだったんだ」


「死にりつかれた人間は、もう、目が死んでいますからね」


 ナーソー、お前も、けっこう死んだような目をしてるよ? とは言わずに、ルッキオは続けた。

「――それじゃ、役人さんを狼煙台のろしだいのところで、死んだことにできないかな」


「――死んだこと?」

「殉職扱い」


 ルッキオは考えた。


「役人さん、国に戻りたくないし、お金がいるんだって」

「はー、ワケありでしたか」

「この道中に死んだことにすれば、王家うちからお金が出るんでしょう?」


「出ますね」

 ナーソーも考えている。

「こういうことに、うるさそうな神官は白目むいてるし、いけますかね? 隊長!」

 ナーソーは、ちょびヒゲ隊長を呼んだ。


「できますな!」

 ちょびヒゲ隊長は即答してきた。

「わたしはしないがね! 妻とは、いまだ週いちのラブラブだからな! なぁ、みんな!」

 さらに部下に、相づちまで求めた。

 

「そうですなぁ。オレたちも」

 兵士たちも全員、うなずいている。帰りたいんだね。いいよ。


「口裏を合わせてください」

 ルッキオは頼む。

「それに、ここに残って、やっぱり殺されるイベントでも発生すれば、結局、殉職だから」


「そうだ、そうだ」

 全員の言質をとった。白目むいてる神官は、除外。


「それでは。第6王子、幸運を」

 兵士たちは、ひらりと騎馬の人になり、あぶみを靴の裏で鳴らしてくれた。

 サーシェル流のやくぬぐう仕草だ。


 ここ、最厄さいやくの魔王の砦城でやられても、焼け石に水っぽいけど。


 彼らをルッキオは城門まで見送った。短い付き合いだったにかかわらず、じんわり来た。心が弱っているのかもしれない。



「兵士たちは、お帰りになられたのですね」

 いつのまにか、片メガネさんがルッキオのそばにいた。


「はい。馬車の御者も返しました」

 馬車の御者は兵士が兼任していたから。

「馬車は残したくて」


 って、ナーソーが、しかめ面で立ち尽くしている。


「お願いがあるのですが。力持ちはいますか」

 ルッキオは、片メガネさんに頼ることにした。


「この城に力持ちは多いですよ」

「じゃあ、やさしい力持ちさんで、お願いします。馬車の中を見てもらって、判断によっては、馬車の近くに従者を住めるようにしてください」


「馬車は大事なものですか」

「馬車の中にいるものが、です」



 ルッキオは馬車の扉を開けた。

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