第8話 3泊め 狼煙台
2泊めの峠の宿をあとにした。魔王領まで、あと1泊は野営だ。
第6王子一行には、緊張感がハンパない。
魔王領の砦城に入る前に、獣のエサになるのではという予感をぬぐい切れない。
「あぁ。こんな経験をすると、わざわざ、夏の異動遊園地でホラーハウスに金を払う奴らの気が知れないね」
ルッキオは、ふるえた。春だというのに、日が落ちると一気に冷える。
完全に日没を迎える前に、一行は街道沿いの古代の
ガリ版刷りの旅のしおりに、〈 最期の夜は野営 〉とあった。最後じゃなくて? 誤植じゃなくて?
「しかして、ホラーハウスの収入は王宮の金庫を、けっこううるおしているのですよ」
しちさん君(役人)が教えてくれた。彼は焚火にする小枝を集めているところだ。
「そうだったのか」
ルッキオも小枝を集めることにする。
「今回の同行の兵士は野営に
しちさん君の手の中が小枝でいっぱいになる。
「あー。軍手、持ってくればよかった。役所に、いっぱい予備あったのになぁ」とか言っている。
「この道行に同行とは、君も貧乏くじだね」
ルッキオは屈託なく言ってしまった。
「いえ。もし、この道行で私が死ぬようなことがあれば殉職ですから、慰労金が出ますから」
しちさん君、謎の笑顔。
「えっ。死ぬ?」
「たとえば、の話ですよ」
それにしては真顔で。
「備えあれば憂いなしです。この世は、かくも憂いばかりではありませんか」
自分で自問自答してるし。
その横を、神官が長衣の裾をさばきながら通り過ぎて行った。
「星を
神官助手が、その神官について行った。
「星を
ルッキオがつぶやくと、しちさん君さんが教えてくれた。
「あれは神官の隠語ですよ。トイレです」
「へぇ。ルクレティアたちが、『お花を摘みに』って言う、あれの神官バージョン」
ルッキオは聞いてみた。
「し……、役人さんのところも、何か隠語あるんですか」
「トイレはトイレですね。特にないかな?」
「おもしろくないー」
「役人に、おもしろさを求められてもですな」
しちさん君の表情が、一気に暗くなった。
何か地雷を踏んだみたいだ。ルッキオは黙って小枝を拾うのに専念することにした。
ところで、
屋根がないから、オリーブ色のタープを兵士たちが張ってくれた。これで風や雨をしのげる。
石垣は高く頑丈だから、獣の侵入も防げる。
古代の人に感謝だ。
入り口は馬車でふさぐようにする。
「最悪、狼が来ても、まず馬を襲うでしょう」
ちょびヒゲ隊長が言う。
「火を絶やさぬようにすれば、獣は近づきません。それと、これがあります」
彼は手提げランプのようなものを、いくつか取り出した。
「どうぶつ、げきたいき~」
なんで、今、わざとらしく声を変えた?
「動物撃退機?」
「超音波と光で動物を寄せ付けないようにするものです。王宮特許出願中です」
「へぇ。便利グッズだね」
それを
「じゃあ。ぼくは何か目の覚めるような話を、見張りの兵士さんにするよ」
ルッキオは、どうせ今夜は眠れないから、と思った。
夜が明けたら、明日は魔王領なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます