第6話  神官助手、いただきます

「お食事の用意ができましたで」ということで、ルッキオはナーソーとともに食堂へと急いだ。

 広くもない宿の食堂は貸し切りだった。

 役人と神官は同じ丸テーブルに。

 ルッキオとナーソー、神官助手が同じ丸テーブルに案内された。

 お若い者同士で? なら、従者のナーソーは? 王子の扱いが軽めな気がする。


(まぁ、庶子の第6王子だからなー)


 はじめから補欠要員の人生だ。

 

 席につくと、田舎のおばちゃんという感じの女給から、ほどよく水に湿した手拭き布を渡された。

 同時に、茶色の釉薬がかかった陶器のピッチャーも置かれる。これには水が入っているようだ。

 ナーソーがピッチャーを手に取り、3人分のピューター製のマグカップに水を注いだ。従者の自覚はあるらしい。

 水を飲むのは、ルッキオのテーブルの3人だけだ。

 役人と神官は、ビアーでのどをうるおしていた。


 神官助手は、ルッキオと同じく成人前なのか。

 サーシェルの成人は15歳。たいてい、その前に酒の味を覚える。新鮮な飲料水が、いつも手に入るとは限らないからだ。かえって、一般家庭には葡萄酒の一瓶のほうがあったりする。


「ここの水は冷たくて、おいしいね」

 ルッキオはマグカップから一口飲んで、さしさわりのない会話をした。ピューターの表面も冷えているから、触れた指が気持ちいい。


「高山だからでしょう」

 神官助手が口を開いた。

「この高山の向こうが魔王領です」


「はいっ。お待たせっ」

 おばちゃん女給がテーブルに、ピューター製の大皿を威勢よく置いた。

 大皿には、崩れるほどゆでたイモと、腸詰の太いソーセージが盛り合わせてあった。ほかほかと湯気が立っている。

 

「ソースは何をかけますか?」

 ナーソーが聞いてきた。テーブルには小さめのびんが3本、並んでいた。ソースらしい。


「何がおすすめ?」

「何もかけないのが」

「じゃ、なんでソースを勧めるのさ」

「そこにソースがあるからですよ」


「それでは、まず、何もかけないで食べてみましょうか」

 神官助手が提案してきた。

「素材の味が、いちばんですよ。それと、そういうふうにしておくと、食べ物に毒を混ぜられたときに、すぐに気づきます」

 物騒なことを会話にはさみつつ、結局、このテーブルでは神官助手が、いちばん大人なようだ。


「では、ルッキオ王子の前途を祝して。いただきまーす」

 神官助手が、ソーセージにフォークを突き刺した。


 前言撤回。

 こいつ、空気、読めねぇ。


 〈空気K読めないY君〉、そう呼ぶことにする。

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