第9話 ルッキオ、星を詠む
魔王領まで3泊4日の旅。3泊めの野営。
(今、何刻なんだろう)
夜中に、ふとルッキオは目覚めた。
焚火は、ぱちぱちと
眠れないなんて思ったが、温かいミルク
「ナーソー、ラピスに、ごはんはあげた?」
馬車に近い壁にもたれていた従者に、小声で話しかけてみた。
森に果物はないだろう。
「宿の主人に春キャベツと
ナーソーは眠りが浅いタイプのようだ。すぐに答えてきた。
「なんでしたら馬車の中で眠りますか」
「そうだねぇ。でも、もうすぐ夜明けなんじゃないか」
空の色が明けの色に変わりつつあった。
もし、雨の天気予報が出たら、宿場町で足止めだったらしい。
1日でも寿命が延びるところを惜しいことをした。
「……ナーソー」
ルッキオは小さな声で呼んだ。
「はい。なんでございましょう」
「星を
昨晩と今朝、宿場町の宿で、たらふく食べたつけが来た。
焚火番の兵士に、もにょもにょ説明すると動物撃退機を1台持って来てくれた。
「これを持って行けば大丈夫」
ルッキオは、ありがたく受け取った。
それとナーソーが、握りやすい太さの木の棒の先に油をしみこませた布を巻きつけたトーチを持って、うしろについて来た。
「足元に気をつけてください」
少し
「あまり遠くに行かなくてもいいですよ」
「う……ん」
恥ずかしいので離れたい。
ルッキオは動物撃退機を持って、可能な限りナーソーから遠ざかる。
木陰にしゃがむ。
そこで気がついた。
「……尻拭き紙、持ってくるの忘れた」
「しょうがないですねぇ。ちょっと待っててくださいよ」
ナーソーは、
ルッキオは、自然の呼び声に応えておこうと、しゃがんだ。
そのとき。
UUUUUU。
風を切る音がした。
はじめは何か、わからなかった。
ただ、そこに異質のものがあった。
浮かんでいるホールケーキだ。
銀の。それも発光している。
ホールケーキだ。王族の婚礼パーティーで出てくるぐらいの大きさの。4本の触角を持った。
空中に停止して、ルッキオの5メートルほど向こうに。いる。
ルッキオは腰が抜けんばかりに驚いた。
いや、ズボンをあげるのも忘れて、うしろへ、すっころんだ。
「わわわ」
動物撃退機をかき抱く。
しかし、そもそも、あれは動物じゃないだろ、と自分でツっ込む。
「王子!」
ナーソーが戻ってきてくれた。
UUUUU。
銀のホールケーキが一気に距離を詰めてきた。
「!!!!!」
ナーソーが、尻拭き紙をホールケーキ目がけて投げつけた。
はらん、はらん、と生成りの薄い紙が舞う。
「トーチだろ! 投げつけんなら!」
思わず、ルッキオは叫んだ。
その悲鳴を兵士たちが聞きつけたようだ。
ルッキオは下がったズボンに足をとられながらも、必死に
銀のホールケーキはついてくる。
確実にルッキオをロックオンしている。
「王子!」
しちさん君が、いきなり現れてルッキオに覆いかぶさった。
銀のホールケーキに襲われる!
「……」
ルッキオが、しちさん君の肩越しに、そろっと見ると、銀のホールケーキは空中に静かに浮いたままだった。
兵士たちが剣を抜いて、銀のホールケーキを囲む。
いやいやいや。
「爆弾か⁉」兵士。いちばんでかいの。
「浮いてますけど⁉」兵士。宿屋で、いちばん飲んでたやつ。
見てわかること言うな。
UUUUU。
また、銀のホールケーキから不可思議な音が発せられた。次に。
『 ヨウコソ、
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