第4王子の城へ
第20話 あたらしい御者
魔王城の砦城を治めているのは、
「夜空のような
ルッキオが詩の推敲をしている
「来た頃よりは仲良くなれたかな」
アーフェン王子に気に入られないことには、ルッキオの明日はない。人質の命とは、そのように吹けば飛ぶようなものだ。
「そろそろ、
ルッキオは、そわそわしていた。
本格的な夏がはじまる前に、魔王の第4王子ファビアンの城へ行くと伝えられていたからだ。
それはそのとおりで、今朝、アーフェン王子の片腕であるイスゥは部下たちに差配した。
「サーシェルの第6王子を連れて行くので、そちら関係の世話係も必要です。御者が1名。テストゥドゥのお世話係は、現行の2名が同行。王子への連絡係が1名というところでしょうか」
カメの世話係の方が、ルッキオの係より多い。
その旨は王子への連絡係が早速、ルッキオに、すぐ伝えてくれた。
「それは、まぁ、わたくしがおりますからね。わたくしが」
ナーソーが、抑揚のない声で言う。
「おまえは。ぼくにかける時間より、ラピスを世話をする時間が長いんだよ」
「ほっほー。何ですか。ラピスに嫉妬ですか」
「いや。僕の世話は手を抜いているだろうと言いたいだけだ」
「手助けしないことが、手助けなのです」
「
「それはそうと、馬車のことですが。御者は誰が」
「ば、役人さんじゃないの?」
ばくはつ君とルッキオは言いかけて、すんでで止めた。
「彼は御者は、できないのでは」
ナーソーが言う通り、前職公務員事務官だからな。
「ナーソーは」
「したことはございませんよ」
それはそうだろう。
「魔人の誰かが、してくれるんじゃない? どうして?」
そんなに気にするのか。
「わたくしたちの馬車は人用ですからね。魔人の方々は総じて上背がありますし、重量も」
「あ。もしかして、馬車、つぶれそう、とか」
「御者台に、どうにか
「あの~」
魔人の召使いが、ドアの入り口の隙間からのぞいていた。〈どすこい〉と陰ながら呼んでいる、ラピスの世話係のひとりだ。
「すんません。ノックしたんすけど……」
「すいません。従者の
ルッキオは、眉尻を下げてあやまった。
「何でしょうか」
「第6王子にお客さまです」
「客?」
いぶかしげに問い返したルッキオに、「ヨアヒム・パンニーニどのですよ」と、ますますわからないことを言う。
そして、わからないまま階下に降りていくと、あの神官助手がいた。
「ルッキオさま! お久しぶりです!」
全力で少年はお辞儀してきた。
「君、ヨアヒムて名前だったんだ」
「はい。名はヨアヒム。姓はパンニーニ。しがない孤児でございます」
「せっかく帰れたのに、どうして戻って来たの」
少年は、ちょっとせつない顔をした。
「帰ってまもなくのことでした。ある晴れた日に修道院が、ついに倒壊しまして」
あの修道院だ。
「あー、そういえば、あのときで、だいぶ傾いていたよねー」
「それで、仕えておりました神官さまは……」
少年の瞳がうるんだ。
だめだったんだ。
「私が神官さまの手を取りましたときに、『つくづくも気がかりは、第6王子のことだ。どうされたことか。お前、行って、たしかめてきてくれ。ご無事なら、お前が王子に仕えておくれ。私の……、代わりに……』と」
神官助手の言葉がつまった。
「それで来てくれたの。殺されるかもしれないのに。いや、殺されないけどね」
ルッキオは、あわてて言い直した。
「意外と、魔族はフレンドリーなんだなとは、わたしも思いました。お土産、持たせて帰らせてくれましたし」
「お土産? どんなの?」
「魔王の砦城を空撮した絵葉書セットです」
それは、〈オスのミツバチ〉を飛ばして撮ったんだろう。観光地化を目指してるのかな。
「話を戻しまして。お仕えさせていただくわけには参りませんでしょうか」
「うん。ちょうど、ぼくらの馬車の御者がいなくて困っていたところさ。君なら、御者、できるよね」
「はい。できますよ」
「よし。交渉成立。ただし、お給金は、ぼくからは出ないよ。ぼくとて、しがない人質の身だからね。君、副業とか経験ある?」
「修道院では、修道院ブランドの薬酒やクッキーを売ってました。歩合制で。それを、こづかいにしてました」
「それは心強いな」
パンニーニか。
ちぢめてニーニでいいや。
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