第3話 同行者
正しくは『 王のアシのウラ 』ではなく、『 王の●●● 』と書いたと告白したあと、ナーソーという従者は黙った。
がらがらと車輪を鳴らして、4頭立ての馬車は進んだ。
山路に差し掛かったようだ。
木々の緑が馬車の窓を流れていく。
(これがピクニックだったら楽しかったのにな)
ルッキオは、ため息をついた。
「ところで、ぼくたちの足元に置いてある、この固いの。甲羅にみえるのですが、ちがいますか?」
馬車に乗ったときから、ルッキオの足元には違和感があった。
「カメですよ」
当たり前だろうという目をして、ナーソ―が言った。
「カメ。あの。
ルッキオは確認する。
「どのカメだと?」
「すいません。ぼくの認識より、ずいぶんと大きなカメで」
ルッキオの足元のカメは、ほぼ、馬車の床を占めていた。
「なんで、カメを連れて来たの」
ルッキオの問いに。
「甥から託されたカメです。残していけませんから」
「そうか。それにしても、でかいカメだね」
「
ナーソ―の説明は続いた。
自分の得意分野になると、話長くなるタイプの人だ。
「ガラパパゴスゾウガメ種群です。最大
「今度、読んでみるよ」
ルッキオは適当な相づちを打った。
「でも、床が、ほぼカメでいっぱいで。ねぇ、気づいてる? ぼく、遠慮して爪先立ててるんだ。もう足がしびれてきたよ」
「そうですねぇ。では、カメの甲羅に足を乗せてもかまいませんよ。馬車を降りるときに、足首から先があるかどうかは保証しませんが」
「……」
ルッキオは足元の甲羅を見つめた。
「横座りになるからいいよ」
馬車は4人乗り。向かい合った座席を、それぞれ、ルッキオとナーソ―が占めているのだから、横座りになれば解決する。
「ハハ。冗談です。ラピスは、おとなしいやつです。野菜と果物しか食べません」
ナーソ―は、書いたような笑い方をする。
「そうか。じゃ、遠慮なく。ラピス、足をのせさせておくれ」
ルッキオが、そっと甲羅の頭側をのぞくと、奥で黒曜石のような二つの輝きが、しぱしぱとしたようだった。
「ただし、土足厳禁です」
靴のまま、カメの甲羅の上に足を乗せかけたルッキオに、従者の注意がとんだ。
「——まぁ。だね。でも、王族の馬車旅は急に賊に襲われたりしたときの対処法として、靴を脱ぐとか有り得なくない?」
「小国の、ましてや第6王子を誰が襲うんです?」
「いや、昔、敵対していた国の残党が襲ってきて、身代金を要求するとか」
「どのくらい要求すると、お考えですか」
「50マンエン……、かな」
「王子にしては、
「じゃ、110マンエン……」
「びみょう」
結局、ルッキオは大判のハンカチーフをカメの甲羅の上に敷いて、足をのせたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます