第2章 初めての王都編

01 Dr.スズは王都へ行く






「マルちゃん、街だ! 街が見えたぞ」

「あんまりはしゃぐと落ちるよ」


 あれから1週間。

 スズとマルヴィンは朝早く乗り合い馬車に乗り込み、街へと繰り出した。


 身を乗り出すスズの白衣を掴み、マルヴィンがたしなめる。


「城壁の外だけど、もうこの辺りは王都おうとになる」


 家々や商店が立ち並び、活気のある街だ。

 日本でいうと、城下町の外堀のさらに外側の街という感覚だろう。


「マルちゃんの姉ちゃん、来てくれて良かったな」

「昔からのじいちゃんの知り合いの家にとついだからね。こういう時じいちゃんを見てもらえるから助かるよ」


 昨日の夜、マルヴィンの姉が家を訪ねてきた。じいさんと飼い犬のココ、それに家畜たちの面倒を見てもらうためだ。


 スズとマルヴィンは、今日からしばらく王都で過ごす。

 スズは、出会った日の夜のことを思い返す。







「俺の父親は、医術師いじゅつし連盟の副総長そうちょうを務めている」

「医術師連盟……?」


 あの夜、決して婚求ではないと完全否定したアズリールは、改まってスズに言った。


「医術師連盟は、我が国……プリミジェニア王国と従属国の現役医術師を取りまとめている機関だ」


 つまり、元の世界でいう医師会いしかいのようなものだろう。

 スズは眉根を寄せて、アズリールに問う。


「副総長ってことは、国の医者の中で2番目に偉いってことか……?」

「まぁ……3番目だな。

 連盟の総指揮は八神はちしん教会が行っているので、順番でいうと枢機卿すうききょう、総長、その次が副総長だ」

「すごいじゃないか!!」


 書棚にあった地図で見た限り、ここプリミジェニア王国は北大陸の半分を領土としている。


 その王国の医師会の偉い人となると、元の世界でいえば欧米諸国を代表する医師と言い換えられるだろう。


「色々あってな。2年ほど前に役に就いた」

「なるほど。では、アズにゃんの父上は、私が医師としてこの世界で生きるためにまず挨拶しておかねばならん相手ということだな」

「そうだな。

 おい、スズ……父の前でアズにゃんって言ったら蹴り飛ばすぞ」

「オーライオーライ」


 アズリールは疑いの目でスズを見遣った。







 アズリールはあの翌朝、早々にマルヴィンの家を出て一足早く王都の自宅へと帰っていった。

 事前に父親にスズのことを説明しておくためだ。


 そしてスズとマルヴィンは1週間かけ最低限の準備を整えると、ようやく今日王都へ出てくる運びとなったのだ。


「スズ、魔術についての説明は覚えてるか?」

「魔術は7つの属性から成る。せい魔術はレア。国内の魔術師は八神はちしん教会への登録が必要」

「そうそう。聞いてないようでちゃんと聞いてたんだな、僕の説明」


 魔術は、火・水・木・風・土・光・聖の7つの属性から成る。

 それぞれに対応する7人の神が認めた者のみが魔術をたまわる。


 その七神しちしんと、闇の神を合わせた八神を崇めるのが八神教。


「落ち着いたら八神教会に行かないとな。無登録で魔術を使うのは、本当なら不敬罪にあたる」


 八神教会はここプリミジェニア王国において、王室以上の権力を持っている。

 王国内の魔術師は、教会で厳重に管理されているようだ。


「城壁が見えた。そろそろ降りるよ」


 街を抜けると、そびえ立つ城壁が見えてきた。

 城門の手前で馬車が停まり、他の乗客が降りる準備を始める。


 スズとマルヴィンも荷物を降ろしていると、「手伝うよ」と声をかけられた。


「アズにゃん!!」

「おい、大声でそれを言うな」


 先に王都に戻っていたアズリールが、城門の外まで迎えにきてくれていた。


 3人でよたよたと荷物を運びながら、城門へと移動する。

 マルヴィンは身分証を見せ書類に記名し、門番に硬貨を手渡した。


「スズは身分証がないから、城壁内への入場に許可証が必要だ」

「へぇ、やはり城塞じょうさい都市となると厳しいんだな」


 アズリールは、父親に用意してもらったという書類を門番へ見せる。

 門番は小さく頷き「結構です」とスズの入場を許可した。


 アズリールの父親は、やはり相当な権威を持つ人物だということが推し測られる。







 城門を無事通過すると、城壁の外の街以上に活気のある街が広がっていた。

 馬車や人々の往来おうらいも多く、城壁の外に比べ建物の装飾にも趣向が凝らされていた。


「お父上の反応はどうだった?」

「まぁ……会ってみないことには、という反応だった」

「そうか。緊張するな」


 アズリールの父親は、出迎えついでに所用を済ませているとのことで、まずは父親と合流することになった。


「準備は整ったのか?」


 スズ達が持ってきた大きなトランクを指し、アズリールが尋ねる。

 スズはそれに、得意げに答えた。


「注射器、聴診器、顕微鏡けんびきょう、麻酔薬、消毒用アルコール、輸液ライン、蘇生そせいバッグ、シャントチューブにバルブに……」

「1週間でそんなに……!?」

「マルちゃんも私もほぼ寝ていない」


 そう、この1週間のほとんどの時間は、医療器具や薬剤の作成に費やされたのだ。


 まずはマルヴィンが買い出しに出かけ、この世界で揃う材料・原料を片っ端から買い集めた。

 その間にスズは、作りたい器具の設計図をひたすら書き進めた。


 それに従ってマルヴィンが、能力ギフト工匠こうしょう形成けいせい術』で形成を進めた。


「スズは異常だよ。あんなに寝ずに魔術使えるなんて、人間じゃない」

「元の世界でも、スズは異常にタフだとよく褒められたよ」


 手に入らなかった材料についてはスズが、能力ギフト聖哲せいてつの合成』で合成する。

 設計図を書き材料を合成し、マルヴィンが形成し、組み立て、その間にスズは薬剤を合成し……


 準備は完璧とは言い難いが、簡単な医療行為なら行える程度の準備は整っていた。


「お父上に挨拶したら、特許申請に行かねばな。当面の資金稼ぎになる」


 今のところ、材料費は全てマルヴィンに借金している状態だ。

 当面の活動資金の収入源としても、早めに申請をしておきたいところだ。






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