07 Dr.スズは教皇に謁見する






「Dr.スズ、昨夜はよく眠れたかい?」

「お陰様で、Dr.アーサー。泊まらせてくれて本当にありがとう」


 朝の挨拶を交わし、一行は馬車に乗り込む。


 レーベンフック家アズリールの家から大聖堂までは、徒歩圏内だ。

 しかし荷物が多かったので、スズ、アーサー、アズリール、マルヴィンは馬車で大聖堂までやってきた。


 大聖堂の入口にはエリカと、真っ赤な衣服を身にまとった男が立っていた。


「Dr.スズ、おはよう。

 こちらは、枢機卿すうききょうシャルル・ホーエンハイム様よ」


 エリカの紹介で、男が医術師いじゅつし連盟で一番偉い人―――であると理解する。


「ホーエンハイムきょう、お初にお目にかかる。今日はお時間をとって頂き、ありがとう」

「……中へ」


 スズはできる限り丁寧にお辞儀をしたつもりだったが、シャルルは不機嫌な様子でそう言った。


 大聖堂の内部は広く、奥には八神はちしんらしき者の彫刻が並んでいた。

 その手前で、窓から刺しこむ朝日に照らされた男が、大きな椅子に腰かけている。


教皇きょうこう様、お連れしました」


 シャルルの声が、大聖堂に響く。

 白い衣服を纏い、ロザリオのようなものを首にかけた男―――恐らく、この人こそが。


「初めまして。八神教会・教皇、ジョバンニ・メディチです」

「スズ・キタザトだ。本日はお時間をとって頂き、誠に感謝する」

「こちらこそ、わざわざ足を運んでくださりありがとうございます」


 教皇は杖を突き、椅子から立ち上がった。

 教皇は非常に丁寧な話し方で、スズに対して深々と頭を下げた。


「皆さんも、付き添いご苦労様です」

「教皇様、突然のお願いにも関わらずありがとうございます」


 エリカやアーサーも、挨拶を交わす。

 アズリールとマルヴィンは緊張した様子で、教皇に頭を下げた。


「まずは……魔術師登録を行いましょうか。

 【七神しちしんもん】を拝見しても?」


 教皇に言われてスズは、【七神の紋】を見せた。

 右手薬指の『聖哲せいてつの合成』と、左前腕の『聖者の慧眼けいがん』だ。


「ありがとうございます。登録は、この聖杯せいはいを使います」


 テーブルに乗った優勝カップのような器が、聖杯らしい。


「両手をかざし、聖杯を見つめてください。数秒で済みますよ」


 教皇に言われた通り聖杯に手をかざすと、右手の薬指と左の前腕が乳白色に光った。

 光はそのまま浮かび上がり、聖杯へと吸い込まれていった。


「魔術師登録は以上です。ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう」

「通常はこの後、洗礼せんれいを受けることになります。受けられますか?」


 スズがお礼を言うと、教皇は穏やかに尋ねる。

 返答に悩んだが、選択権はスズにあるようだったので素直に答えることにした。


「まだこの……八神はちしん教のことをあまりよく知らない。少し考えさせてほしい」

「わかりました。我々はいつでも歓迎しますよ」


 教皇が変わらぬ穏やかな笑顔を見せたので、スズはほっとした。


「それで、我々はあなたに伺いたいことが山のようにありますが……あなたも、何か特別な話があるようですね」


 教皇は、スズの持ってきた大荷物に目を遣り尋ねる。


「さすが教皇様、話が早い。

 実は、治療の許可を得るためにここへ来たのだ」


 スズは、ようやく本題に入れると言わんばかりに声色を高くした。


「場所を変えましょうか」


 教皇は穏やかな表情のまま言った。







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