05 Dr.スズは同志に出会う
「症状はいつからだ?」
スズの問いに、アズリールは唇を尖らせた。
「3週間ほど前から徐々にだ。それまでは魔術具師として何の問題もなく仕事をしていた」
服を着替え終わり、じいさんとマルヴィンが戻ってきた。
じいさんは
(歩き方を見る限り、パーキンソン病か
しかし、
じいさんはマルヴィンに促され、椅子に腰掛ける。スズはじいさんの傍に寄り、声をかけた。
「こんにちは。私はスズ・キタザトだ。あなたの名前は?」
「……なんだっけ」
「わからないか。いま頭の痛みはないか?」
「……頭は……痛くない」
認知機能障害のひとつである
「……何か、わかるのか」
「思い当たる病名はあるにはあるが……
この世界には、身体の中を透視するような機械はあるか?」
「透視? そんなものはない。死んでから切り開く以外に、身体の中身を知る方法はない」
アズリールの返答は、想定内だった。
CT、MRIなどの検査ができないということは、
「血を抜いて検査する方法は?」
「
「なるほど。……では、病名の判別は難しいな」
血液検査もできないとなると、病名の絞り込みは困難を極める。
(X線検査ができれば……いや、開発までの過程が長すぎる)
スズの知識をもってすれば、時間をかければX線検査装置を造ることは可能だろう。
しかし完成する頃には、じいさんの症状は回復が見込めないほど進行してしまう可能性が高い。
そう考えながらじいさんの肩に手を置くと、スズの手が白い光を放った。
すると、スズの頭にビジョンのようなものが浮かんでくる。
(これは……じいさんの体内か……?)
骨格、神経、血管、リンパ管……まるで
「また
「そうかもしれないな」
驚いた様子でいうアズリールに落ち着いて答えながら、スズはじいさんの頭に手を添えた。
手の位置や角度を変えると、任意の角度で脳内を見ることができた。
「左右対称の
頭頂部の
手をかざすだけで脳内の様子が見える。
現代の常識で考えれば有り得ない状況だったが、スズは既にじいさんの脳に夢中だった。
「原因がわかるのか……?」
「あぁ。私に見えているのが本当にじいさんの頭の中なんだとしたら、
「スイトウショウ……?」
アズリールはベッドから上半身を起こした。
スズは自身の頭部を指さしながら説明する。
「簡単に言うと……脳の中に水の溜め池があり、そこに過剰に水が集まることで脳が圧迫される」
「治療方法はあるのか?」
「私のいた世界なら、早期に治療をすればある程度症状が回復することが多い」
「ど……どんな方法で?」
アズリールの反応に対し、スズは顔を
「アズリール。君はなぜそこまで興味を持つ?
じいさんは君にとって、家族というわけではないだろう?」
始めから感じていた違和感。
中世と同程度の文明の時代に現代の知識を持ち込めば、通常なら霊だ悪魔だ
しかしアズリールは……そしてマルヴィンも同じように、身を乗り出してスズの話を聞いている。
一瞬
「……すまない、自己紹介が遅れてしまった。
俺は、アズリール・レーベンフック。1年目の医術師だ」
そして、マルヴィンも観念したように続ける。
「僕は、マルヴィン・コンラート。……いまは、魔術具師だ」
マルヴィンの言葉に、アズリールは少し苛立った様子で続ける。
「マルヴィンも、医術学院を卒業している。
実務経験を終える前にこの魔術具工房を継いだので、医術師免許は持っていない」
アズリールの話から察するに、この世界にも医学部のような教育機関があり、実務経験を一定期間積むことで医師免許が取得できるようだ。
「なるほどな。では2人には、専門的な説明をしても良いということだな?」
「ぜひ」
アズリールが、深々と頷いた。スズは、ニッと口角を上げ笑った。
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