02 Dr.スズは腰椎穿刺を行う
翌朝。
じいさんの状態は良く、バイタルサインにも問題は見られなかった。昨日のうちに血液検査も実施済だ。
予定通り、タップテストを行うこととなる。
手術室には、スズとアズリール、助手としてマルヴィン、更に2人の
「じいさん、麻酔は少し痛い。痛みは長くは続かない。痛くても、危険なので大きく動いてはいけない。
大丈夫か?」
じいさんは、落ち着いていた。少し不安げな表情を見せながらも、スズの言葉に頷く。
「マルヴィン、じいさんの手を握っていてくれ」
じいさんを手術台に横向きに寝かせ、背中が丸くなるように膝を抱かせる。
「では、始めよう」
皮膚の消毒後に穴あきドレープを掛け、アズリールが
骨盤の後面、左右の
棘突起を上に辿っていき、第2・第3腰椎の間に針を刺し込む。
「まずは皮膚だ。少し引いて、
麻酔は2段階。表層の皮膚と、
麻酔薬が注入されると、皮膚がぷっくりと膨らむ。
「ゆっくり針を進める。角度は良い。感触を感じながら、ゆっくりでいい……もう少し……よし、そこだ」
スズが『聖者の
アズリールの頬に汗が流れ、看護師が拭う。
「角度を変えて広範囲に……注入しながらゆっくり抜くぞ。……そう、やっぱり器用だな」
麻酔の注入は問題なく終わった。
アズリールがふーっと息を吐く。
麻酔が効いてきたのを確認し、今度は
「じいさん、ここからは痛くないはずだ。もし痛みがあったら、すぐに教えてくれ。
危ないので、引き続き動いてはいけない」
じいさんは緊張した様子で、ふたつ頷いた。
スズは確認のため、アズリールに改めて説明を行う。
「垂直に、針が一気に入りすぎないように背中に中指を当ててゆっくり進める。
万が一骨に当たる感覚があれば、焦らず角度を変えればいい」
「わかった」
アズリールはもう一度大きく呼吸した。
今度は
スズが再び『聖者の
「オーケー。そのまま保持してくれ。
じいさん、もう痛くないはずだ。力を抜いて楽にしてくれ」
スズが言うと、膝を抱え込んでいたじいさんの緊張が少し抜ける。
「
アズリールはこれ以上ないほど眉間に皺を寄せていた。
ようやく針を抜き終わると、数秒後、安堵した様子で天を仰いだ。
問題なく終わった。アズリールは、全身の力が抜けていくのを感じる。
「じいさん、無事に終わったぞ。少し休んで、動けそうなら動いて構わない」
バイタルサインに問題がないことを確認し、スズはじいさんに声をかけた。
じいさんはほっとした様子で、曖昧に笑った。
施術の数分後には、じいさんは身体を起こした。
水分摂取を促しながら、自分のタイミングで立ち上がったり歩いたりして構わないと伝える。
施術終了から、1時間後。
「じいさん、さっきと同じテストをする。
立ち上がって、花瓶の向こうを通ってまたこの椅子に座る。いいな?」
TUGテスト(Timed Up & Go Test)という検査法で、施術前後の歩行状態を比較する。
椅子に座った状態から歩き始め、3メートル先で折り返し再び椅子に座るまでの時間を測るものだ。
施術前は、36秒かかっていた。
立ち上がりに時間がかかり、歩幅は狭く足の裏が床に張り付いたように歩いていた。
「これは……!!」
施術前に比べじいさんの歩行状態は激変しており、一同が驚きの声をあげた。
立ち上がりがスムーズとなり、歩幅が大きくなった。腕を振り、足を上げて歩くことができている。
TUGテストの結果は21秒であり、15秒も短縮されている。タップテストで30ccの
「こんなに変わるものか……!?」
「かなり変化が大きい方だな。それほど
驚くアーサーに、スズは頷きながら答える。
手術適応かどうかの最終判断は、1週間後だ。
歩行状態の他に認知機能テストの結果も加味して評価を行う。
……が、歩行状態がこれほど改善していることから見て、認知機能も1週間以内に多少改善するだろう。
「じいさん、本当にお疲れ。手術もきっと上手くいくよ」
スズが言うと、じいさんがにこりと笑った。
スズがハグをすると、じいさんもスズの背中に手を回した。
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