最終話 Dr.スズは褒められたい







 じいさんの手術から、1ヶ月。


「先生。本当に、世話になった」


 じいさんは順調に回復し、とうとう退院の日を迎えた。


「じいさん、長く引き留めて悪かったな」

「俺を思って、だろ。わかってるさ」


 通常なら1週間程度で退院となるが、何せこの世界で初めての外科手術だ。

 経過を診るために、1ヶ月間はリハビリを受けながら治療院で過ごしてもらっていた。


 じいさんの歩行状態は、ほぼ病前程度まで回復した。排尿での失敗も今は全くないようだ。


 認知機能は寛解かんかいとはいかずまだぼんやりはしているようだが、日常会話や指示従命じゅうめいは問題なく、自発話も徐々に増えている。

 ここから更に数ヶ月かけ、回復する可能性も十分ある。


「Dr.スズ!! 本当に、本当に本当に本当に、ありがとう!!」


 村から迎えにきたマルヴィンの姉はスズに抱き着き、涙を流しながら何度もお礼を言った。


「こんなに良くなるなんて……

 じいちゃんを取り戻してくれて、本当にありがとう……!!」

「私だけじゃない。マルヴィンとアズリールが居たから、じいさんは元気になったんだ」


 スズが言うと、マルヴィンとアズリールは気まずそうに頭を掻いた。


「大変だろうが、しばらくは1ヶ月おきに診察に来てくれ。

 来なければ、押し掛けるからな」

「わかった。ちゃんと王都まで来る」


 じいさんは改めてスズに向かい、手を差し出した。

 スズが握手を返すと、思い出したようにぽつりと呟く。


「あの時……どうにもならんと、諦めていた……記憶はある」


 じいさんは、一番症状が重かった頃のことをあまり覚えていない。

 しかし、スズ達が自分のために奔走していたことだけは、なんとなく理解しているようだ。


 頭を掻き、ようやく言葉を選んでじいさんが言う。


「命があって、だな」


 じいさんの言葉に、スズとマルヴィンとアズリールは目を合わせた。

 3人同時に噴き出して、笑い出した。






 城門でじいさん達が乗った馬車を見送り、スズ達はもと来た城壁内の道を戻っていく。


「マルちゃん、このあとの私の予定は?」

「今日の予定は、王室での診察、下水処理施設の図案最終確認に、感染症対策総会の打ち合わせ……

 あ。今日は製氷機の特許料の支払い日だって」

「お! 今日はご馳走だな」

「製氷機、アホほど売れてるな」

「猛暑のおかげで貴族にバンバン売れたらしい。貴族からむしり取った金で、そろそろ石油でも掘るか」

「セキユってあの、医療器具を作るのに欠かせないって言ってたやつ?」

「そうだ。その前にまずは、環境保護に関する教養の一般化と汚水・汚染物処理場の設備を進めなければ……」

「先を見据えた投資と開発というわけか。さすがDr.スズ」

「やめてくれアズにゃん、むず痒くなる」

「あれ、Dr.スズは褒められたいんじゃないの?」

「マルちゃんまで私をからかうのか」


 3人の夢は、まだ始まったばかりだ。









 ―――「Dr.スズは褒められたい」完結






 読んでくださり、ありがとうございます。

 少しでも気になった方は、引き続きよろしくお願い致します!


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