第19話

 浩宇に本当のことを話して貰わねばならない。けれどスマホを取り出して指を触れようとしては勇気が出ず仕舞う、の繰り返しになった。何を訊けばいいのだろう。莉香が女の子で、既に死んでいるのなら、あのリーシャンは誰? 確かに面影おもかげはあるけれど、明らかにあの子ではない。他に兄弟がいるようなことは、番組では一切言ってなかった。だったら。思考が堂々巡りにおちいる。何が起きているの?

 連絡を取らないまま秋になり、後期の授業が始まった。取れる限りの講義をスケジュールし、志乃は勉強に集中した。気を抜くとリーシャンがするりと思考に入り込む。講師の言葉が、意味を持たない音の羅列られつと化す。志乃は疲れ果て、とうとう眠れなくなった。

「しーちゃん、顔色悪いよ。送って行こうか?」

 友人の申し出を、午後の講義があるからと断り、志乃は大学近くのファストフードの店に入った。食欲は無いが食べないと持たない。とりあえずサンドイッチとアイスティを注文して席に着いた志乃の耳に、女子高生の甲高かんだかい笑い声が響いた。頭が痛い。席を替えようと立ち上がりかけた志乃は、笑い声に続いた言葉を聞いて椅子に座り直した。

「テルミン?」

「そうそう。テルミンを弾くんだって。その曲が恐ろしくて、心が弱い人は聴くと飛び降りちゃうみたいよ」

 テルミン。リーシャンの部屋にあった楽器と同じだ。

「で、誰が弾いてるのさ。今度はうそ情報じゃないでしょうね」

「ちゃんと聞いてきたわよ。えっとね……ポケモンみたいな名前だった」

「だから何て名前なの?」

「えーっと。あ、思い出した。リーシャン。リン・リーシャン」

 志乃はテーブルにトレイを置いたまま席を立った。ふらつく足で寮の部屋に戻り、ベッドに突っ伏す。気を失いそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る