第18話

「なあ、この人、しーちゃんに似てない?」

 義兄の言葉に、美波と志乃はテレビに顔を向けた。画面には四十代ぐらいの品の良い女性が映っている。

「しーちゃんを五倍ぐらい上品にした感じね」

 美波がそう言って笑う。似ているかどうかは別にして、その女性は人を引き付ける美しさを持っていた。画面が替わり、やはり上品な中年男性の顔が映し出された。ふと、その顔が浩宇と重なり、志乃はまばたきした。

「中国の実業家みたいね。琳 博文リン ブォウェン、琳 翠蘭スイラン夫妻、だって。聞いたことないね」

 名前を聞いて、志乃は画面を凝視した。今度は浩宇より少し年上に見える若い男性が映っていた。長男 浩然ハオランさん(31)というテロップが出る。間違いない。ビジネスマンらしく髪を短くしているが、その顔は浩宇にとてもよく似ていた。

「今日は来ていませんが、次男が日本に住んでいます」

 少々片言交じりで、中年男性が言った。柔らかい口調だ。

 VTRに替わり、琳 博文の経歴が説明された。若い頃の苦労を経た成功。美しい妻を得、長男と次男をもうけて順風満帆じゅんぷうまんぱんだった博文を不幸がおそう。

『四十歳を越えて思いがけず授かった念願の女の子は、生まれつき身体が弱く……』

 画面に、五、六歳ぐらいだろうか、息をむような美少女の姿が映し出された。カメラに向かって微笑む顔は、まさに天使だ。

「可愛い」

 姉と義兄が同時に溜息を洩らした。けれど志乃だけは、血の気が引いていくのを感じていた。美少女の胸元に飾られていたブローチは、青い石に彫られたカメオだ。映像に重なったテロップの文字は「莉香リーシャンちゃん」そして「享年7歳」。没年月日は、ちょうど十年前の今日。

 姉夫婦が何か喋っていたが、志乃の耳には入らなかった。リーシャンは女の子で、 そして、十年も前に死んでいた。

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