第17話

 青空が高く見える。暦の上ではとっくに秋で、季節としての夏も、もう終わる。ツクツクボウシの声が聞こえる実家の縁側えんがわで、志乃ゆきのは空を見上げていた。来週から九月になるという週末。実家に帰って来た志乃は、逃げ出してしまったような後ろめたさを感じて溜息をついた。浩宇ハオユーに連絡する勇気は、いつまで経っても出なかった。向こうからも連絡はない。このまま関係が切れてしまうんだろうか。リーシャンに、もう会えなくなるのだろうか。

「しーちゃんがお盆に帰省きせいしなかったから、お父さんがしょげてたのよ。今日帰って来たら大喜びするわね」

 半袖Tシャツの上にエプロンを着けた姉の美波みなみが、そう言いながら志乃に麦茶の入ったグラスを手渡してくれた。表面に水滴がついている。氷の音が心地いい。父と母、そして姉夫婦が住んでいる築四十年の実家は、縁側と中庭がある昔風の造りだ。縁側には風鈴と蚊取り線香があって、庭の木にとまった蝉の鳴き声がうるさい。まだ十分に強い日差しが肌を刺した。

「人間界だ」

 志乃の独り言に、美波が不思議そうに首を傾げた。

「何それ?」

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