第5話

「聴くと死ぬ歌?」

 大学近くのファストフード店で遅めの昼ご飯を食べていた志乃の耳に、隣の席から女子高生の浮かれたような声が聞こえてきた。

「YouTubeで流れてるらしいんだけど、その曲を聞くと死にたくなるらしくて、何人もが再生した直後に自殺してるんだって」

「へー、どんな歌なの?」

「楽器弾きながら歌うみたいよ。何とかって楽器」

「何とかって何よ」

「ほら、あれよ。うーん、思い出せない」

「何て検索したらいいの?」

「えーっとね、何だっけ?」

 甲高い笑い声が起きた。

「何の情報も入ってないじゃん。嘘でしょ、それ」

「嘘じゃないよ。友達の友達が、先週マンションのベランダから飛び降りたんだから」

 むきになって言っているのが可笑しかった。この手の話によく出て来る『友達の友達』は『知らない人』だ。他愛のない、会話の為だけの話題。アイスティーを呑み干した志乃は、ふとうらやましいと思った。彼女たちのような可愛げは自分にはない。志乃は意味のない会話が苦手だ。何事も他人事として考えられない性格のせいで、ついつい真剣になってしまう。もしかしたら、そんなところがいけなかったのだろうか。思考が要らない処に入っていきそうになり、志乃は急いで席を立った。

 日に日に日差しが強くなってきているので、自転車での配達は日に焼けてしまいそうだ。夏休みには別のバイトを探そう。そう思いながら自転車を押して歩いていると、スマホに連絡が入った。店と配達先を確認した指が止まる。配達先の住所には「琳タワー32階」という文字があった。

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