第4話
「え?」
志乃はポケットから出てきたものを見て驚いた。カメオのブローチ。シェルカメオじゃない。
「何でこんなものが」
どこで
「綺麗」
光に
「あの子」
海の底のような青い部屋に住む、不思議な少年。まさか……でも。もしそうなら返さないといけない。明日もう一度訪ねてみよう。新しいハンカチにブローチを包み、志乃はそっと机の上に置いた。
翌日は専門課程の講義が幾つかあり、午前中と午後の一限は大学に行かなければいけなかった。ソーシャルワーカーになるためには、国家資格を取る必要がある。MSWなら社会福祉士、PSWでは精神保健福祉士の資格取得が必須だが、志乃はダブルライセンスを取ることを目指していた。教養課程の単位を取り終わったからと言って気を抜いていては間に合わない。お昼休みのタイミングで学外に出ていく友人たちを見送り、志乃は三時を過ぎた頃にやっと正門を出た。
自転車にまたがり、先日走った道を走る。潮風を感じながら暫く進むと、上部が階段状になった琳タワーが見えてきた。裏の駐車場の隅に自転車を停め、エレベーターで四回に上がる。
「あの、すみません」
受付で声を掛ける。差し出された用紙に名前と連絡先を記入した志乃は、コンシェルジュに事情を説明した。
「ペントハウス、ですか?」
「はい。屋上の、キノコみたいな。そこの方にお会いしたいんです」
コンシェルジュは首を傾げ、
「屋上にはペントハウスなど御座いませんが」
少し眉を寄せ、
「そんな筈ありません。先日料理の配達に伺ったときは確かにありました。そうだ、8451の琳さんに
「お帰りください」
低い声でそう言うとコンシェルジュは背を向け、さっさと奥の扉の中に入ってしまった。人のいなくなった受付に取り残され、志乃は尻尾を巻いて帰るしかなかった。
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