第15話

「無下にしないでやって欲しい」

 監視カメラは音声も拾うのだろうか。帰り際、浩宇に言われた。

「あの子の気持ちは思慕です。本気にしなくても構わない。ただ、あの子はとても脆い。どうか」

 傷つけないでやってください。浩宇は、そう言って頭を下げた。


 リーシャンとの結婚生活は、今一つイメージ出来なかった。あの部屋は異世界だ。結婚などという世俗せぞくの習慣とは相容あいいれない気がした。海の底のような青い部屋。窓から見えるのは海中の景色だ。晴天の時は澄んだ海、曇天どんてんや雨の日は荒れた海。

 スクランブル交差点横の大きなスクリーンに、住宅メーカーのコマーシャルが流れていた。新婚の夫婦だろうか。仕事で海外に出かけている妻の携帯に夫から電話が入る。一人で留守番は怖い。いつ帰ってきますか。明日? シャンプーハットを被り、黄色いアヒルが浮かんだ浴槽。子供のような夫と、しっかり者の妻。二人を守る家。

 リーシャンとも、こんな風に暮らせるのだろうか。

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