第21話

 指定されたのはカフェではなく、会員制のバーだった。入り口で困っていると浩宇が現れ、志乃を中に誘った。個室に案内され、飲み物とつまみが提供される。浩宇が目で合図すると、ウェイターは黙礼もくれいしてドアを閉めた。

 BGMの流れない、何の音もしない部屋だった。暗い照明。沈み込んでしまいそうなソファ。

「君から連絡をくれてありがたかった」

 目を合わさないままで志乃の話を聞いた後、浩宇はポツリとそう言った。

「いつかは話さないといけないとは思っていた。けれどん切りがつかなくて、今になってしまいました」

 浩宇はミネラルウォーターのグラスを空け、大きく息を吐いて顔を上げた。

「志乃さん」

 すがるような、にらみ付けるような視線だった。

「リーシャンを大切だと思ってくれますか」

 志乃がうなずくと、浩宇は重ねて言った。

「何を聞いても、あの子の味方でいてくれますか」

 志乃は大きく息を吸い、吐き切った。姿勢を正して浩宇を睨み付ける。

「約束します」

 浩宇の目がうるんだように見えた。目を伏せ、また顔を上げる。

「あの子の本当の名前は、莉静リージンといいます。琳 莉静。それが、あの子の名前です」

 悲し気な眼差しで遠くを見つめながら、浩宇は語り始めた。

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