第20話

 確かめなければいけない。志乃はスマホを手に取り、ユーチューブで検索を掛けた。『リーシャン』で検索してもポケモンしか出てこない。『琳 莉香』では。やはり出ない。色々試してみても引っ掛からない。志乃はユーチューブを閉じて検索エンジンを開いた。『テルミン、聴くと死ぬ』。興味本位のうわさ話のサイトや知恵袋の相談が現れる。それらを一つ一つ潰していくと、中に一つURLを記載したものがあった。『閲覧えつらん注意。見る人は自己責任でどうぞ』とある。志乃は躊躇ちゅうちょせずそれをタップした。ユーチューブに跳ぶ。『Rixiang』とタイトルが表示され、動画が開始される。志乃は音量を上げ、画面をのぞき込んだ。

 ハープの音が低く流れる中、透明感のある濃い青でりつぶされた画面に人の形が浮かび上がる。濃紺のベールを被り、バックの青と同化しそうな人影がテルミンの前に立ち、静かに顔を上げる。

「リーシャン」

 それは間違いなく、リーシャンの顔だった。無表情にかすかに悲しみの影を落として、リーシャンはテルミンに手をかざした。

 第一音を聞いただけで衝撃が走った。グランドピアノもハープもマトリョミンも、すべてがお遊びであったことが分かる。聴く者の胸に突き刺さるような、それは悲しい音だった。青い海で、ローレライは歌う。遠い日の悲しみ。逃れられない苦痛。寂しさ、心細さ。後悔、過ち。犯してしまった罪。そして絶望。あらゆる負の感情が内へ内へと向かい、血を吐くような叫びとなる。慟哭どうこくゆるしをい、助けを求めるように、テルミンはいた。

 リーシャン、やめて。悲しんでは駄目。自分をいじめては駄目。今すぐ会いに行くから。側にいるから。一人で海に沈まないで。手を離さないで。

 気付いた時には曲は終わっていた。止めようとしても止まらない涙が頬を伝う。リーシャンに会いに行こうと思った。助けたいなどというおごった思いはなかった。つかまえないといけないと、何故かそう思った。

 スマホを持ち直し、浩宇に電話を掛ける。2コール目で電話はつながった。

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