第31話
一年間、大学を休学した志乃は、後期カリキュラムが始まる秋になって、
連絡先に
時折り冷たい風が吹くようになった。午後の講義が休講になり、時間が空いた志乃は、自転車で海沿いの道を走っていた。もうすぐ琳タワーが見える。確かめようと思った。
裏の駐車場を入り、エレベーター横のスチールの扉を開ける。見上げた
よく登れたものだと思う。自分の脚を
強い風が吹き付けた。
コンクリートだった筈の地面には芝生が生い茂っていた。一面の芝生に風が波を立てる。少し茶色の混じる波頭が綺麗に並んで流れていく先に、胸のあたりまでに高くなった柵が見えた。屋上には芝生の波と風の音だけ。吹きぬける風の音に、風見鶏が向きを変える軋んだ音が混じる。
ペントハウスはなかった。リーシャンは、消えてしまった。
志乃は大学を卒業し、社会福祉士と精神保健福祉士のダブルライセンスを取得した。けれどソーシャルワーカーの仕事には就かず、小さなメーカーに就職した。
探してはいけないのだ。忘れなければいけないのだ。そう自分に言い聞かせて、志乃はリーシャンを胸の奥に仕舞い込んだ。傷つけないように、大切に。幾重にも、柔らかな記憶のベールに包んで。
幼稚園で一緒だった豊川
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