罪人騎士団のシスナ
アリサカ・ユキ
シスナ
「校内で、剣を抜いたわね! お前は終わりよ!」
ローザ・フォン・ハイデンベルクは、歓喜に身体を顫わせた。
廊下。何人もの生徒たちが見ている。
あたしは、退学だ。もしくは貴族に刃向かったのだから、死刑だろうか。
学校支給の無骨な剣の切先を相手の鼻先に向ける。ローザも、名剣と言われるヌァザをすうっと鞘から鮮やかに引き抜いた。
そして。打ち込んでくる。捌く。打ち込んでくる。捌く。
凡庸な剣だ。エリカの一太刀一太刀には輝きがあった。
相手の視線から、下履きの運動靴の足の踏み込みから、腕の角度から、剣の動きがわかる。なぜみんな、これができないのだろう?
「シスナ、守るだけ? あたしの猛攻に、反撃できないんでしょ!」
首、腕、心臓、首。いつでも殺せた。そうしないのは、いくら憎いとは言っても、クラスメイトを殺す踏ん切りがつかないからだ。
「エリカもお前も生意気! 特にお前は、戦争孤児、4級市民の分際で! 2人して、地獄を見るといいのよ!」
その言葉に対して、激烈な怒りを感じた。こんな感情が自分の中にあることに戸惑う。これに任せれば、目の前の女を、死体にすることもたやすいように思えた。
エリカの夢を奪った女。気高く、慈愛に溢れたあの人をこんなつまらない人間が、踏み躙ったのだ。
「ヴァルキュリア騎士団の副団長の地位になるあたしの手にかかるのだから、光栄ね!」
ローザは、剣を真一文字に下ろしてきた。あたしは体を少し捻ってそれを避ける。彼女の武器を握った手、指に、刃を当てる。斬らなかった。当てるだけ。彼女の剣士としての人生を終わらせることはできた。彼女がエリカにしたように。
たぶん今の危機に彼女は気づいてない。なぜ、わからない? クラスメイトの誰もがそうだ。あたしは、誰よりも弱いと思われている。
天才剣士と言われたエリカは言った。
「あなたは、わたしに勝てるでしょう? でも、あなたは優しいから……」
エリカ、でもあたしは、復讐ができないよ。これが優しさ? あなたの無念も晴らせずに。
死刑になっていいかな。4級市民の人生なんて先が見えている。
あたしは剣の柄を両手で、強く握った。それから、当てる角度を一瞬で考えて、ヌァザに強烈な一撃を喰らわせる。剣は、ローザの手から高く飛んだ。
「シスナ・シェザード! そこまでよ!」
スターハルディン・ジークライア。担任の先生の声が、高らかに聞こえた。
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