罪人騎士団、駐屯所

あたしたちは、駐屯所の中に入った。それはいいが、騎士団長の部屋はどこなのか。奥へ進む廊下を歩きながら、目を左右に持っていく。


通路の横にドアがあり、それが開く。


「あなたたち?」


ショートカットの髪の毛の女だ。年齢はあたしと同じくらいに見える。鋭利な目つきに似つかわしくない、愛らしい声。歌えば、聞き惚れそう、とか思う。


「すいません、あたしたち、今日付けでここに配属されることになっている者ですが……」


「あーね。そこの階段を上がって、左行って正面。そこに、シャルンホストがいるわ」


「それが、騎士団長の名前ですか」


ヴィリーが問うと、女は、そうよ、と言った。


あたしはお礼を言って階段を進む。言われた通りの場所に、一際質の良い木で作られた扉がある。そこをノックしてみた。


「入れ」


男の声がした。


中に入ると、髪の長い男が大きな机の前に座っており、その前に巻毛の女が立っていた。2人ともに夜警の時に見た人物だ。


「今日からお世話になります、シスナ・シェザードです!」


どう挨拶していいかわからないので、背筋を伸ばし、せめて元気にと、声を上げた。


ヴィリーとトラウテも名乗ったが、あたしは緊張のため、その言葉を明瞭には聞き取れなかった。


「承った。俺は、指揮官のシャルンホスト・ヴィットリアだ。楽にしろ。ここは軍隊ではない」


そして、大口を開けて笑った。


「あたしは、ミンダーナ・バーブル。副官をしてます」


腰にそれぞれ2本づつの剣とナイフ、背中に両手剣、これも2本のバスタードソードを装備した巻き毛の女が言う。


2人もと、20代中盤くらいの年頃だ。


「早速になるが、まずは、お前たちの実力を見たい。剣術実技室まで来てくれ」


シャルンホストは椅子から立ち上がり、先導して部屋を出た。あたしたち3人の後ろをミンダーナがついてくる。


階段を降り、先のドアがあるのとは反対の方向へと歩く。そして、大きな扉があり、中に入ると道場だった。


「相手をするのは副官のミンダーナだ。そっちは、誰からくる?」


シャルンホストは、聞き取りやすい発音で話す。ヴィリーが手を挙げた。


「僕たち兄妹は、2身1体の戦いをするのですが」


「ああ、ショル兄妹とか言うのはお前らか。構わない。2人がかりで戦ってみろ」


ヴィリーはあたしの方を向いて、「お先に」と口をついた。トラウテも「じゃあ……」と。


2人は剣を抜き、ミンダーナの前で構えた。トラウテが右利きで、右に立ち、ヴィリーは左利きらしく、そして左に立っている。トラウテは鍔の丸い帽子を脱いでいない。


ミンダーナは、2本の剣を抜いた。それで胸の前に十字を組む。


刃で相手を斬らないように剣を布で巻いたりしないんだ。学校とは違うんだ……。


ヴィリーとトラウテが駆け出した。同じ速度。剣がミンダーナを襲う。左右、狂いのない同じ角度で斬り込まれる。それを両方の剣で受けたミンダーナは、ヴィリーに向かって、斬撃を繰り出した。それを右からトラウテが受ける。突き返すヴィリー。ミンダーナは、身体を少し跳ねるようにして避けた。ヴィリーとトラウテは同時に踏み込み、2人して剣を上段から下段へと振る。両腕を広げるような形で、二つの剣を二つの剣で押し退けるミンダーナ。


ヴィリーとトラウテは、息が完璧にあっている。2人の剣を1つの剣で防げるか、あたしは考えてしまう。勝つことを思考する。それが自然とわく。


2人は左右に割れた。右にトラウテと左にヴィリーと、ミンダーナの側面に立つ。ヴィリーの剣が胸を、トラウテの剣が背中を、獲物めがけて、高速に薙がれた。ミンダーナは体を横にして、左右にまた剣を広げるようにして防御した。


そうだ、体を動かすこと。剣だけでは防げない。とにかく、激しく立ち回れば、勝機は見える、そう思った。


そして、いきなりミンダーナは、素早く剣を腰の鞘に収めたと思うと、背中のバスタードソードを2本抜いた。刀身は1.2mくらいはある。えー、あの長さの剣を両手に持つ?


それからは瞬く間だった。乱舞。繰り出される剣速は、畳み掛けるかのように息つく暇もない。ヴィリーを狙った剣は、彼を壁へと追い込んでいく。間には入ったトラウテの剣に激しくバスタードソードがぶち当てられて、彼女は、その衝撃に跳ね飛ばされた。帽子が飛ぶ。長い髪の毛が、ぶわっと騒ぐ。2身1体が崩れた。


そして、その両手剣が、ヴィリーの首元に当てられた。


「どうですか?」


ミンダーナがニヤリっとした。ヴィリーは、剣を持ったまま肩をすくめてみせた。


「参りましたよ。あなたはお強い」


「5分だな。ミンダーナ相手には保ったほうだ」


胸のポケットから懐中時計を出して時間を測っていたらしいシャルンホスト。


「ヴィリーにトラウテ。檄文が得意らしいな。お前たちには剣以外でも働いてもらうかもしれん」


「はあ……」


ヴィリーがモサモサの髪の毛に手を入れた。2人は、剣を鞘に収める。

 

シャルンホストは、あたしを見た。それからミンダーナを見る。


「やれるか?」


ミンダーナは、嬉しそうに笑った。


「勿論ですよ、閣下マイ・ロード、シャールカーンさま」


「本名で呼ばないようにな」


なんだろう、2人のノリ。


ショル兄妹のことばかりに意識がいっていた。出会いがあって印象付けられたせいだろうか。強いのはミンダーナだ。たぶん、先のは楽勝だというだろう。まだ、底知れない実力を隠していそう。


あたしはツクヨミを抜いた。


剣を見てか、ひゅう……っと、シャルンホストが口笛を吹く。


ミンダーナは、バスタードソードを背中に収めて、普通の剣を抜いた。十字の構え。


倒せるなら躊躇しない。


あたしはそう決意しているのだ。

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