5分だ

剣を両手で握った。その柄をみぞおちあたりの前にし、剣を構えた。とりあえず、どこを攻撃してきても、反応できるかたち。


集中をする。ミンダーナは、十字の構え。しばらく睨み合った。お互いに、剣は届く距離にある。


相手のどこを狙えばいいのか、身体の動きに変化はないのか、それが、明晰な理解をともなって、言葉でない思考として、頭にある。


ミンダーナの右手が動いた。縦にされた剣を振り下ろす。あたしの頭蓋を割るような凶悪な軌跡。それを、剣の平たい部分で流すようにする。同時に踏み込み、剣を横にしたまま、斬りつける。彼女は身体を下げて、あたしの攻撃を避けた。左手の剣で突いてくる。それを弾いて、あたしは踏み込む。そのまま、斬撃。ミンダーナは下がる。あたしはさらに踏み込んで斬りつけるが、それは難なく避けられる。


あたしは圧しているのか? 何かがおかしい。簡単すぎる。


急にミンダーナが剣を鞘に収めてナイフを手に取った。あたしはその隙を狙って、斬りつける。


だが、その剣の勢いを止めねばならなかった。ミンダーナは、剣術実技室の壁を背にしていたのだ。あたしは、剣が壁にぶつかる事を憂慮したのだ。


ミンダーナは、そこから、するどくナイフを伸ばしてきた。あたしは、剣が間に合わず、とっさのことに、左手で、彼女の手を掴んだ。もう一つの手のナイフがあたしの胸を狙う。その時、剣を身に引き寄せていたが、とても、防御に間に合わない。あたしは、足を上げてミンダーナの横の壁を蹴った(スカートではしたないかも知れないが、仕方ない……!)。左手も離す。勢いのまま、身体が後ろに飛んだ。相手の身体を蹴っては、彼女は身体をくの字に曲げて、衝撃は吸収されて、刺されていただろう。


投げ出された身体は、木の床に倒され、あたしは、素早く立ち上がろうとする。


ミンダーナは、すぐ前にいた。床に転がったあたしに、2つのナイフを突き立てるように刺突してきた。


あたしは、横に回転して、その場から動く。ミンダーナがナイフを収めて、背中のバスタードソードを装備したのが目の端に入った。


たぶん、彼女は間合いにより武器を変えてるのだ。


素早く立ち上がる。あたしはこの時、勝利が見えた。できるか? もちろん、予想だ。やってみる価値はある。


剣を、差し出すように前にまっすぐ伸ばした。それから、心持ち切先を下方に向ける。カウンターを狙う構え。


あたしは、ミンダーナにすり足でにじりよった。


相手もゆっくりと歩いてくる。彼女は、バスタードソードの間合いギリギリで止まる。あたしはあえて、そこから近寄らない。


待った。


「何を企んでるんですか?」


ミンダーナは、緊張感のある声で言った。あたしは答えなかった。集中が切れないように。


「その誘い、乗りました!」


ミンダーナの左手のバスタードソードが、薙ぐ形で、あたしを襲う。あたしは、剣の柄に近い部分の刃でその剣の切先を力いっぱいに弾いた。


少しバランスを崩したミンダーナに対してあたしは右足を出す。斬り込んでくると思った彼女は、しかし、それをチャンスとばかりに右手のバスタードソードであたしの左肩を狙ってきた。あたしは、足を出したまま、身体は、前にしない。


ミンダーナの繰り出された両手剣の先っぽも、左手の時と同じように、剣の柄ぎりぎりの刃をぶつける。


剣は、柄を握っている場所からの距離が遠くなるほど、そこに力が入らなくなってくる。つまり、手に近い部分の方がより力が入る。


力の入りづらい剣の先を、力の入る剣の根元で、渾身込めて弾いたのだ。しかも相手は両手剣。握り手から剣先までの距離が長い。ミンダーナの両手は、思いっきり、その安定性を崩されて、立て直すのに数瞬を必要とする。


あたしは、ここで身体をミンダーナ側に持っていき、剣の刃を、斜めに彼女の右肩から左腰に当たるようにした。


「5分だ。まさか、ミンダーナをくだすとはな」


シャルンホストの大きな声。


「まさか、の、まさかです。今回は強かったですが次は同じようにはいきませんよ!」


爽やかに笑みながら、ミンダーナは、バスタードソードを背中に収めた。そして、言葉を続ける。


「まあ、本気の戦いなら、あたしは死んでました。あなたが敵でなくてよかったですよ」


「あ、ありがとうございます!」


あたしは頭を下げた。


これが、実力を惜しみなく発揮することなのか。確かな手応え。それは、あたしを誇らしく思わせた。この積み重ねが、自信につながるのか。そしたら、あたしは、強い人間になれる?


あたしの脳裏に、エリカの顔がよぎった。がんばって! そういう表情。


あたしは少し、顔が綻んだ。ミンダーナが訝しげな顔をする。


ヴィリーとトラウテがあたしの近くに来た。


すごいですね、とヴィリーが、トラウテは、がんばった……、と先の戦いを労ってくれる。


あたしは照れくさそうになってしまいながら、ツクヨミを腰の鞘に戻した。

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