ゾンネ・ユーゲント、ミリ隊
あたしは、斬った。容赦なく。目の前の人は、赤い血を噴き上げながら、その命を失う。簡単だった。怖いほどに。こんなに弱いものなのか、人は。
戦慄し、まるで子供が見知らぬ街で親を見失ったかのようなあてどない恐怖心を感じながら、あたしは乱戦の中、剣を振り続ける。
「イスカリオテ隊だ!」
レジスタンス、レーギャルンの猛者たちの部隊。
男や女の集団が、こちらに突っ込んでくる。
「罪人騎士団、引け! ここは、ゾンネ・ユーゲントのミリ隊が、相手をする!」
「たった3人でか? 正気なのか!」
数時間前。あたしたち罪人騎士団のメンバーは、ミーティング室に集まり、シャルンホストの話を聞いていた。
「知っての通り、レジスタンス、レーギャルンは、荒っぽいことも辞さない武闘派な連中だ。こいつらが、銀行を襲うという情報が入った」
「は?」
ギゼラが、変な声を出した。
「そうだ。活動のためだろうと、市民の金を巻き上げるなら、それは許し難い犯罪集団でしかない。こいつらは、一線を越えるつもりだ。容赦なく排除しろ」
シャルンホストは、横にいるミンダーナに視線を送った。
ミンダーナは頷き、小さな体を一歩前に出した。
「はい。みなさま、今回、ゾンネ・ユーゲントのミリ隊が、この街に来ており、我々の仕事を見たいと。ご存知の通り、かの組織は、シスター・リガ、シスター・ミリ、シスター・ティア、そして神父のヴァーグナーの4人の指揮官それぞれに3人の少年少女が配されています。その、集団戦では最強と言われるシスター・ミリの部隊です。我々の仕事が見たいのではなく、血が見たいだけかもしれませんが、まあ、あしらっておきましょう。とくに、今回レーギャルンから、最強のイスカリオテ部隊が出てくるとの話もあります。ミリ隊の彼らとことをあたるのは悪い話ではないでしょう」
すっと下がる。
「そういうわけだ。……シスナ」
いきなり、名を呼ばれた私は立ち上がる。
「は、はい!」
「どうだ?」
「やれます!」
「期待してるぞ。よし、みんな、出撃だ!」
おうっと叫び、立ち上がるみんな。駐屯所を出ていく。
そして、銀行の近くにあたしたちは身を隠し、レーギャルンを待ったのだ。
そして、レジスタンスはやってきて、斬り合いとなる。
イスカリオテ隊の前に、シスター・ミリの隊が立った。少年1人と2人の少女。片目のゴットローブに、年齢に見合わない派手な赤いドレスを着た長髪のラーヘル、そして、緑のドレスのこれも長い髪の毛のエレノーア。ドレスの2人は、すでに抜き身の剣だ。
そのずっと後ろ、私たちのほぼ前に、金髪のセミロングの髪の毛を風に揺らしながら、シスター・ミリが両足を少し広げて腕を組んで立っていた。
イスカリオテ隊は、はじめ混乱していた。自分たち30名に対して、対する3人と言うあまりに少ない人数に気味悪さを感じたのだろう。
「脅しだろう!」
イスカリオテ隊は前に進んだ。片目のゴットローブが、剣を抜いたかと思うと、それを前に掲げた。赤のドレスのラーヘルと、緑のドレスのエレノーアも剣を構える。
「いくぞ……」
「「了解!」」
それは、突風のような激しさで集団の中に情け容赦なくぶつかっていった。自然に対抗できようものがいようか? ゴットローブの剣が、赤と緑のドレスから反射する光が、イスカリオテ隊を殺していく。
先鋒のゴットローブが、次々と敵を斬りながら、突撃していく。そこに、イスカリオテ隊の人たちは集中してしまう。赤と緑のドレスの女たちは、ゴットローブを死角から狙う敵や彼が討ち漏らした敵を的確に片付けていく。つまり、ゴットローブが戦いやすいようなサポートを心がけている。分担作業をしているのだ。彼らは闇雲な乱戦をするのではない、少人数だからできるやり方の最適化、組織化された戦闘ユニットだ。
20分後、イスカリオテ隊は壊滅した。
シスター・ミリは戻ってきた3人の首に抱きついた。
「ありがとう。あなたたちのおかげでママは助かったわ。命があって、ホント嬉しい。後ろが寒かったわ。」
「ああ、ママ。後ろの奴らはいいのか?」
「どうしよっか? あなたたちはどうしたい?」
クレオンに向けた、シスター・リガと同じ不気味な笑顔。
「俺は殺したほうがいいと思う。ママの敵は少ないほうがいい」
「あたしも、そう思う。殺したい」
「ママの平和を乱すものは許さない」
シスター・ミリは、こちらを見た。
「聞いた? あなたたちの誰か死んでくれないかしら! こうなったら聞かない子たちだから!」
シャルンホストが前に出た。
「一応、仲間みたいなものだ。血を流す意味がない」
「言ったでしょう。こうなると聞かないのよ」
「あんたが、言わせたような気がするけどな」
「あ? 何言ってんの? 誰でもいいわ! 死んで!」
「そっちも死ぬかもしれんが?」
「殺せるなら殺してみなさい!」
舌打ちをするシャルンホスト。
「シスナ、ヴィリーにトラウテ。相手をしてやれ」
「え?」
あたしは、驚く。いや、シスター・ミリの意味のわからなさに、驚いているのだ。
「あの人は何を言ってるのですか?」
「さあな。自分の支配力に酔っているのかもしれん。こういう邪悪なやつは、言葉ではわからん。痛い目を見せてやれ。殺していい。さもないと、こちらが死ぬ」
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