アルミン

生命よ

が聖なる名を語れ


誰もお前を持ち

自分自身のお前を大切にしているのに


他人の持つお前は、忘れ去られている


世界が美しくあるには

お前のその名が

あまねく知られねばならない


悪があり、そこに生命があるならば

俺は悪を許そう


善があり、それが生命を忘れているならば

俺はそいつを信じない


俺は思い出す

幼き日に母が作ってくれた

ミルヒライスコメとミルクのデザート


少年の日に見た

街を精細に彩る

迫るような夕景を


そして

愛されなかった母からの

重い渇愛


母よ

あなたは求めすぎる


どうか我らの意思を認めてください


アルミンは、そんな詩を朗読した。獄中で綴ったらしいそれを書いたメモから、離された目。こちらを睨むように見てくる。それは、大きく、意志の堅固さと賢さを表すように強い光を放っていた。


「どうかな。罪人騎士団の諸君?」


シャルンホストは、うーんっと考えたようにした。そう見せていただけかもしれない。


「まあ、いいんじゃないか。俺はそういうのは語らん。シスナはどう思う」


えー、あたしに振るのか! この人、ナルシストっぽくないかな。ちょっと、ゾワワってする。アルミンは30歳をいくらか越えたくらいの人だ。あたしより10というか、15以上も年上。だから背筋を伸ばし、敬礼みたいなことをしてしまう。


「は、はい。なにか、あたしもうまく言葉にできませんが。生命の名前が行き渡るということは、それを知ることだから、知らないよりいいですよね。知らないことは考えられないですから。あ、あと、あたしも、よく騎士団の詰め所から帰る時に夕暮れの空に魅入ります。その世界の奥深さみたいなのを感じるので、そこが好きです!」


たぶん、帝国の検閲を逃れるために、いろいろ隠して書いてるのもあると思うけど、はっきりわからないのでそこは黙った。


アルミンは、強い目力であたしを見ている。そのエネルギーの圧をとても感じて、あたしは、タジタジとなった。いや、なんだろう、彼のその目力。


「うむ。言葉を持ってるな。どうだ? お前も書いてみては」


「は、はあ? はあ……」


なんとも答えられず、あたしは、言葉を濁した。


助けを求めるように、プロファソーア教授の方を見る。彼女は、赤いフレームのメガネの位置を直すようにして、なぜだか微笑んだ。わからない。なんの笑みなんだ。


「じゃあ、アルミンさんよ。行こうぜ」


「待て。俺は刑期をまっとうして、大手を振ってこの刑務所から出られるはずだ。お前たちがきた意味はなんだ?」


長い髪の毛の前髪をかきあげるようにするシャルンホスト。


「お前の嫌いな愛国者のほうも、お前のことが嫌いでね」


「俺は国を愛しているぞ。気に入らんのは現在の支配者とそいつのやり方だ」


「そうか。それはよくわかる。俺たちはあくまでも、懸念してるだけさ。近頃はぶっそうになったし、お前みたいなのがいなくなったら、いよいよ、だからな」


「帝国の上層部が俺を守れというはずもないが?」


「だろうな。これは俺の独断だ」


アルミンは顎に握った拳を当てた。


「お前たちの噂は、いろいろ聞いている。お前の狙いはなんだ?」


「まあ、所詮、俺たちは罪人でね。いろいろ不満があるのさ。そして、花火を見たくないか?」


「ふっ。俺の花火じゃ不満か」


「なら、護衛になんか来ないな」


アルミンはおかしそうに笑う。


「そうだ、『西のカフェ』に行くぞ」


確か、反体制の人が多く集まるカフェとの情報をギゼラがくれていた。


「しばらく、大人しくしてた方が良くないか」


「俺は3年間、刑務所に入っていた。それに、駆動、常に駆動、がモットーでね。語るのをしない詩人など、何の価値もない」


「ふーむ、そんなもんかね」


そして、シャルンホストは、あたしに道を確認するように言った。彼もプロファソーアも、場所を把握しているらしい。道中で場所を確認するな、ってことかな。護衛だから、進む道に戸惑ってるうちに、敵対者が来たら相手の先制を許してしまう可能性がある。


地図を後腰のポシェットから出して、『西のカフェ』を探す。西の方だろう。よかった、そんなに複雑な道じゃないみたいだ。あたしは頭の中で、道をイメージした。知ってる道から、その先を想像してみる。目印になる地図上の建物を確認しながら。それを記憶する。注意深く、脳内地図を辿ればいいだろう。


「荷物はそれだけか?」


アルミンは、バックパック一つだ。


「捕まった時のが全てでね。丁寧に保管されていたよ」


あたしたち罪人騎士団3人とアルミンは、刑務所から出た。


「うわ、眩しいな。太陽がこれほど輝くものだとは」


アルミンがうめく。彼の言葉使いっておかしくない?


そして、シャルンホストは前を歩き始めた。


プロファソーアは、アルミンの横に位置し、あたしはしんがり。


道を任せ切ってしまわないように、あたしは、意識する。そして、周りにも目を配る。


しばらくしたところで、アルミンが歩を緩め、いつのまにか、あたしの横にいた。それを守るようにプロファソーアもついてきている。


え、なんだろう?


アルミンがあたしを見て、にかり、と笑いかけてきた。


……うっ、あたしは引き気味だ。




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