強襲
その人たちが現れたのは、その直後だった。3人の男と1人の女。
真正面から来た彼らは、朗らかな笑顔さえ見せていた。
あたしは、アルミンを背にした。剣に手を伸ばす。
「夏の名残は、健やかに消えるべきじゃねえか?」
耳の隠れた髪型をしている優男が、そう言った。長い髪の毛が右の顔を隠している。
4人の人物は、歩みを止めた。トラウテはアルミンの背中にいる。他の仲間も考えられるからだ。
「サテアス……」
言葉を発したのはアルミンだ。彼はあたしの前に出ようとするけれど、行かせなかった。
「同じプロミネンスだったサテアスだろ?」
サテアスと呼ばれた男は、髪の毛をかきあげた。縦に走る刀疵が、右の顔を抉っていた。
「帝国を裏切るお前は、蝉のように、夏の向こうにはいけねぇよ」
「ははははは! よせよ、サテアス! お前だって俺と同じ気持ちだろ?」
ニヤリっと笑うサテアス。凄みのある厳しい輝きが、瞳にともった。
「お」
何やらそのように呟いて、剣を抜いたサテアス。
「待て。お前は手を出さなくていい」
後ろにいた3人のうちの1人、少女が剣を持つサテアスの腕を掴んだ。
真紅の腰まである髪の毛。2つのロングソードのお尻をくっつけたような奇妙な武器を、背負っている。
「あたし達はゾンネ・ユーゲントのヴァーグナー麾下の者たちだ。あたしはカイネスヴィーネという。罪人騎士団、そいつを渡してもらおう」
あたしは、固まった。どう判断したらいい?後ろをさっと見た。トラウテは、帽子の位置を直した。前に出てくる。
「そもそもなぜお前らが、この男を護るのだ? 筋が違うだろう」
あたしとトラウテが黙っていると、サテアスの後ろから、残りの2人も前に来た。
「罪人騎士団。いろいろときな臭い噂は聞いてるぜ。それは真実なのか?」
金属の手甲をつけた少年が、冷めた口調でつぶやくように言った。
「ミリさんは、もしかしてあんたらが殺しましたか?」
刃のないただの棒を持った、こちらも少年は、直立不動だ。
「シスナ、あなたは何を信じる?」
トラウテは、あたしの耳元で、小さな声を出した。彼女はあたしの決断に従うつもりなのか。
カイネスヴィーネが、手をこちらに伸ばした。
「総統の名において命令する! そいつを渡せ!」
あたしは目を閉じた。
頭に言葉と映像がビュンビュンと流れる。
帝国。貴族。4級市民。孤児院。振り返って、その手で私のほっぺに優しく触れるエリカ!
信じる道は……。
「決まってるじゃない?」
目を開けたあたしは、トラウテに微笑みをかけた。
「こうでしょう!」
そして剣を抜く。トラウテもそれに続く。彼女の頬も緩んでいるように見えた。
「なるほどな……」
カイネスヴィーネは、背中から剣を2つ合わせた武器を手にした。
「俺に任せろ」
手甲の少年が、低い声で吐き捨てるように言う。
「ドラス、いいだろう。殺してしまえ」
少女は武器を収める。
「あたしが」
トラウテは私より前に出た。
あたしは、身を後ろに持っていく。トラウテは、剣を両手で持ち、切先を前に構えた。
「つまらない。つまらない。お前たちが、オレの気持ちを萎えさせる」
ドラスは、ぶつぶつと言いながら、トラウテに向かう。金属のナックルの右ストレートをトラウテの顔面にお見舞いする!
後ろに引くことで、それを避けた彼女は、相手を右から薙ぐ。ガキィ!! 左手の手甲がそれを防御した。カキキ……。力比べのようにしばらく2人は震えた。だけど男の腕力に耐えられるわけもなく、トラウテは剣を引く。そのまま、左、左、右と剣戟を繰り出す。ドラスは軽業師のようにバク転して距離を取った。そして突進。左のパンチにトラウテは身体の中心から剣を振る。拳の軌道を変える。その相手の腕は剣をきた方向と反対にくぐるようにした。そして、トラウテの武器は、外側に押しやられた!
その瞬間の右。トラウテの左肩に鈍い音がした。彼女は、左半身がのけぞった。そのまま、左に体を回転させた。勢いのある剣がドラスの首に赤い線を引く。
「あ?」
そのまま少年は、地に身体を崩れ落とした。
勢いのままに、一回転したトラウテもバランスを崩して地面に倒れた。
少しの硬直。さっと立ち上がり、服の埃を払うようにする。
「大したことない……」
トラウテは左肩を手で押さえた。
「大丈夫?」
あたしの声に、彼女は頷いてみせる。
「もういまは、戦えはしないわ……」
彼女は、剣を拾い、あたしの後ろに回る。それから、激痛がするのか、顰めっ面だ。
「わかっているのか?」
カイネスヴィーネが、凛とした声を出した。エリカとは違う、芯のはっきりした音。
「なるほどな」
あたしはアルミンを見た。何がなるほどなの? 彼は肩をすくめた。
「シスナ、悪いな。何としても場を切り抜けたい」
「もちろんです」
あたしは抜身の剣を、びゅっと上から下に振った。
罪人騎士団のシスナ アリサカ・ユキ @siomi
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