幸せになる方法
「幸せにしてあげるって…どうするつもりだ?」
俺は柚木にそう問いかける。
「ねぇ、私と一緒に働こうよ」
「え?」
働く?お金を稼ぐってことか?なんで?
「ちょ、ちょっと!」
そこまで黙って話を聞いていた雅さんが声をかけてきた。
「何勝手に話進めてんのよ!」
「のよ!」
…確かに子供だけで決められることじゃない。親、父さんに相談…父さんか…
「少し黙ってて貰っていいですか?」
柚木は普段見せたこともないような鋭い目付きで2人を睨みつけた。そうすると姉妹は口をもごもごとさせながらも黙った。
「2人でバイトしてアパートでも借りようよ。そこで暮らすの」
「ちょ、ちょっと待てよ」
流石にこれは止めざるを得なかった。
「俺たちだけで借りられるアパートなんてあるのか?」
「それは安心してよ!学校からそう遠くないところに安いアパートが見つかったんだ」
だが…
「俺はいいとしても…柚木はそんな訳にはいかないだろ?」
俺1人がアパートを借りてそこで生活するのならまだいい。でもそこで柚木が一緒に暮らすとなったら話は別だ。そんなこと柚木の両親が許すはずない。
「大丈夫!私、もう2人を説得してきてるから!」
「…でも」
年頃の男と女がひとつ屋根の下で一緒に暮らすんだぞ?不安は無いのか?
「何も心配要らないって!」
「…分かった。一緒にバイトしてアパートでも借りよう」
俺はそう決意した。例えこの夏休みを全てバイトに費やしてでも俺はお金を稼ぐ。それはこの生活から抜け出すためだ。
「ま、待って…」
誰だ?そう思い2人を見る。雅さんの声ではなかった。ということは杏寿菜さんか?
「…どうかしましたか?」
俺は杏寿菜さんの目を見てそう言う。
「あ、う…」
数秒間見つめあった末、杏寿菜さんは俺から目を逸らした。
「何もないんですか?」
「…」
その俺の問いに杏寿菜さんは何も答えることなく黙っていた。黙っているということは何も無いのだろう。
「…柚木、本当にいいんだな?」
俺は再び柚木に向き直りそう確認する。
「…ごめんね」
突然柚木が俺に謝った。何故柚木が謝っているのか俺には理解できなかった。
「な、なんで謝ってるんだ?」
「…私の適当なアドバイスのせいで緋月が辛い思いをしたから…て、こんなの言い訳だよね。ごめん。でもこれからは緋月に辛い思いをさせないから」
柚木の瞳には強い意志が宿っていた。
「…ああ、ありがとう」
そう言うと柚木はやっといつものような無邪気な笑顔を浮かべてくれた。あぁ、やっぱり柚木にはその顔がよく似合ってる。
さっきは特に何も考えずにアパートで暮らすということに賛成してしまったがやはり少しまずいのではないだろうか?
「でもやっぱり親には説明しないと…」
流石に両親になんの断りもなくアパートで女子と過ごすというのは…そう思っていたのだが
「大丈夫だって。それも私のお父さんが緋月のお父さんに言ってくれるらしいから 」
「いや、そんなこと柚木の父さんに言わせる訳にはいかないだろ」
これは俺が言わないといけない。きっとそうだ。
「私は大丈夫だと思うけどなぁ…」
確かにそうかもしれない。
「でも俺は父さんにはちゃんと言っておきたいんだ」
これは俺のワガママだ。でもこのワガママだけは貫き通す。
「わかったよ。じゃあ緋月のお父さんにガツンと言ってあげな!」
「あぁ、ガツンと言ってやる」
俺は笑いながらそう言った。あ、こんなふうに自然に笑えたの久しぶりだな。
「あ、緋月が笑った…」
柚木もそれを見て驚いたような表情をしていた。
そして俺と目が合って同時に吹き出してしまった。こういう感覚なんか久しぶりだな。そんなに時間は経っていないはずなのに何故か懐かしい気持ちになった。
「…父さんと母さんが海外旅行から帰ってきたら話すよ」
「うん、それまで待ってる」
柚木はいつものような無邪気な笑顔ではなく優しく微笑んでそう言ってくれた。柚木、こんな顔もできるんだな。
俺と柚木が話しているのを2人は静かに見つめていた。何かを言いたそうにしていたが結局は何も言ってこなかった。
あ、バイト先探さないと。
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