父親失格(総司視点)
俺はどこで間違えたんだ?
最愛の息子がこの家が嫌で出ていってしまった。思えば俺は緋月に頼りすぎたのかもしれない。いや、頼りすぎた。そのせいで俺は全く家事が出来ないし、最近家の中で家事が行き届いていない所が出てきた。
「…あぁ、洗濯物してない…お風呂掃除も…あぁもう!」
「お、俺も何か手伝おうか?」
「あなたは何も出来ないでしょ?!」
「わ、悪い…」
そのせいで優子がイライラしている。雅と杏寿菜もどこか暗い雰囲気だ。確かに家事が出来なくて申し訳ないとは思うが何もそこまでイライラする必要はないだろう…
あの日、緋月がこの家を出たいと言って感情を爆発させた時、俺は何も言えなかった。言ってやれなかった。そんな自分の不甲斐なさに嫌気を覚えた。でも覚えただけだ。行動に移したわけじゃない。だからこそもっと自分に嫌悪感を覚える。
緋月は俺に助けを求めていた。実の息子がだ。だが俺はそれに気づけないどころか更に追い詰めていた。なんと浅はかなことをしてしまったのだろう。だから緋月は出て行った。だから俺はそれを無理にでも引き止めることが出来なかった。
あの日から俺の胸にはぽっかりと空洞が空いている。好きな人と結婚して可愛い娘が2人出来た。でも、でも何かが足りない。圧倒的に足りない。1度も文句を言わず俺のことを支えてきてくれた大切な存在が。この世で1番大切な宝物が。
俺は自らそれを手放した。手放してしまった。元に戻れるだろうか?いや、緋月はそれを望んでいないかもしれない。俺はこれ以上緋月に負担をかけたくない。ただでさえ今まで負担をかけてきたのにそれ以上に負担をかけるだなんて考えられなかった。
「緋月…」
愛おしい息子の名前を口に出す。こんなことしても緋月が帰ってくるわけじゃないのにな。でも嘆かずには居られなかった。
どうして目の前の幸せだけにしか目を向けていなかったのだろう。そんなことになっていなければ緋月が助けを求めていることに気づけたかもしれないのに。
今は後悔以外の感情が見つからない。俺は…どうしたらいい?泣きわめいて緋月に謝ればいいのか?家事ができるようになって負担をかけないと言えばいいのか?優子とは離婚したからもうあの姉妹は居なくなったと言えばいいのか?違う。絶対にどれも最善では無い。
そんなことをすれば余計に緋月に幻滅されるに決まってる。確かにあの時、もっと強く緋月を引き止めていれば緋月は出ていかなかったのかもしれない。でもそれでは緋月が壊れてしまう。あの人は…裕二さんはきっとそれを分かっていたから緋月を連れ出したんだ。
「…ははっ、なんなんだよ俺。居る意味あるのかよ」
自然と涙がこぼれてくる。もう…もうあの空間には戻れないのか?緋月が俺に笑いかけてくれるあの空間には…
こんな親が居て許されてなるものか。息子の助けに気づけない親が居るものか。息子に負担をかける親が居るものか。
俺は
父親失格だ。
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