醜い感情
久しぶりに学校へ行くと裕也が声をかけてきた。
「よう緋月。久しぶりだな」
「裕也。そうだな。夏休み1回も会わなかったからな」
うん。いつも通りだ。いつも通りで居られている。
「…お前、顔色ちょっとはマシになったな」
裕也が俺の顔をまじまじと見つめながらそう言ってきた。
「そうか?」
自分ではよく分かっていない。
「あぁ、夏休み前なんか本当に死んじまうんじゃないかってくらい顔色悪かったからな」
「いくらなんでもそれは言い過ぎだろ…」
確かにあの時はかなり疲れていた。でも今はそんなことない。それもこれも全部あの3人のおかげだ。1番良くしてくれたのは柚木だけど。
「いいや、言い過ぎなんかじゃないぞ。本当にやばかったからな」
裕也が俺に言い聞かせるようにそう言ってきた。そんなに…?
「そうだよ緋月!ほんとに酷かったんだから!」
突然そんな声が聞こえてきた。声のする方を見るとそこには予想通りの人物が立っていた。
「柚木…」
大切な幼馴染の柚木がそこに立っていた。
「な!マジでやばかったよな!」
「ほんとにそうだよ!ねぇ、裕也君!」
「ほんと心配したんだぜ?」
心配してくれたのは素直に嬉しい。俺はこんないい友人を持って幸せだ。でも…なんだか2人、距離近くないか?いつの間にそんなに仲良くなってたんだ?いや、別にそれが悪いってわけじゃないんだけど…なんだこのモヤモヤする感じ。…嫉妬ってやつか?俺が裕也に嫉妬してるのか?…やめろ。そんな醜い感情を裕也に向けるな。いいじゃないか。俺よりもよっぽど良い奴だ。裕也と柚木が結ばれればお互いきっと、いや、絶対幸せになれるだろう。
俺は柚木が大切だからこそ柚木に幸せになってもらいたい。俺なんかと付き合ったら苦労するのは目に見えている。なら俺は柚木と結ばれなくてもいい。ただ幸せになって欲しい。
「…ははっ。心配してくれてありがとな」
俺は笑顔を作ってそう応じる。
「もうあんな顔するなよ?あんな顔されたら俺も気を使っちまうからな」
「っ!裕也君!」
そう、だよな。俺がうつ病なんかになったから余計な心配をさせたんだよな。早く、早く治さないと。でないと人に迷惑をかけてしまう。学校でしか会うことのない裕也にすら迷惑をかけているんだ。俺が居候させてもらっている柚木の家の家族にはどれほどの迷惑がかかっているのか計り知れない。…やっぱりいつまでも厚意に甘えていてはダメだ。
「な、なんだよ…」
「あ、いや…なんでも、ない…」
「そ、そうか?」
なんだか良くない雰囲気だ。やっぱり俺が居るせいか?
「あー…なんかごめんな。2人の雰囲気を悪くして」
「え?2人の…?」
「ひ、緋月?何言ってんだ?お前なんか勘違いしてないか?」
あー…また2人に気を使わせてしまった。本当に俺はダメなやつだ。
「お、そろそろ授業が始まるな。じゃあ俺は教室行くからお前らも遅れるなよ」
俺はそう言って2人に背を向けて教室に向かった。きっと俺が居なくなったらあの2人だって楽だろう。俺は歩き出してから1度も2人を振り返ることは無かった。
その日はできるだけ2人を避けた。嫉妬なんて醜い感情を隠しながら2人と接したく無かった。2人の前では俺は対等でありたいんだ。
そうしているうちに学校が終わってしまった。帰りも俺は柚木と被らないように早めに出る。
正門をくぐって歩き出す。
「緋月君」
誰かが俺の名前を呼んだ。俺は呼ばれた方向に顔を向ける。そこには
「優子…さん…」
優子さんが立っていた。
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