『必要』
「…どうしてここに居るんですか?」
俺は目の前の人物、優子さんにそう言った。
「総司さんに聞いたからよ?」
「…そういう意味では無いです。どうして俺に会いに来たんですか?」
何しに来たんだ?本当に分からない。柚木の家に行ってから今日までなんの干渉もなかった人がいきなり今日俺の前に現れた。それを警戒しない方がおかしいだろう。
「…緋月君。私、気づいたの」
「…何にですか?」
そう聞くと優子さんは続ける。
「あなたが居ないとあの家は家族にならないってことに」
「…」
どういうことだ?理解できない。
「あの家は緋月君が居てこその家族だったの。だから緋月君が居なくなってからあの家は家族じゃなくなったわ。もう1度私たちが家族になるために緋月君、あなたが『必要』なの」
必要。俺が?俺が必要なのか?
「俺、は…」
…いつまでも柚木とその家族に迷惑をかける訳にはいかないよな。それに柚木だって裕也が居るのに俺と一緒に居ていいはずがない。裕也がそんな事実を知ったらどう思う?嫌に決まってる。そうだ。そうだよな。俺はあそこには『必要』ないよな。
「おーい!緋月ー!なんで先に…」
聞きなれた声が聞こえてきた。やはりそこには予想通りの人物が居る。いつもしんどい時に居てくれた幼馴染が。
柚木は優子さんを見つけると優子さんをものすごい形相で睨んだ。
「っ!どうしてあなたがここに居るんですか?!」
いきなり襟元を掴みかかるのではないかと思うほどに柚木が優子さんに詰め寄る。
「どうしてって…緋月君ともう1度家族になるためよ?」
「もう1度って…そんな都合のいいこと言わないでください!あなた達のせいでどれだけ緋月が辛い思いをしたか…ひ、緋月?」
俺は優子さんに怒鳴っている柚木を手で制止した。
「いいんだよ柚木。このくらいが頃合だったんだ」
「な、なに訳分からないこと言ってるの?ね、ねぇ、緋月?」
柚木の目には困惑の色が色濃く出ている。
「…優子さん。俺が…『必要』なんですか?」
俺は優子さんの目を見てそう聞く。
「えぇ、そうよ。緋月君。あなたが『必要』なの」
俺が『必要』。…あぁそうか。さっきまでどうしてこんなに気持ちが揺れ動くのかと思っていたがそういうことか。
俺は誰かに『必要』とされたかったんだ。
「分かりました。俺、あの家に戻ります」
「っ!緋月!何考えてるの?!そんなの絶対だめ!また…また壊れちゃうよぉ…」
柚木は目尻に貯めた涙を零しながらそう言ってくる。
「ははっ、何泣いてるんだよ。大丈夫だって。俺は『必要』とされる場所に戻るだけなんだから」
俺は笑いながら柚木にそう言った。
「嫌だよ…なんでなの?なんで緋月はそっちに行っちゃうの?」
「なにそんなに大袈裟に言ってるんだよ。大丈夫だって」
「そうよね緋月君。私たちはただ家族として正しい形に戻るだけだもんね。さ、私たちの家に帰りましょう?」
「…はい」
俺は優子さんに促されるまま歩き出した。
「待って…待ってよ緋月!ねぇ待ってよ!」
俺は足を止めなかった。止めてしまったらもう動けなくなってしまうような気がしたから。
前も言ったが俺は柚木の負担になりたくないんだ。だから俺は自分から柚木の元を離れる。それが1番いい。そうだろ?なぁ。
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