俺は?

「どうしたんだ?」


父さんと母さんは2人並んでリビングの椅子に座っている。その正面に俺が座る。


「緋月くん?どうしたの?」


父さんと母さんはどこかヘラヘラした様子だった。また海外旅行から帰ってきて間もないため旅行の気分が残っているのだろう。


「…いいかな?」


対する俺は真剣そのものだった。その俺の様子を見てヘラヘラしていた父さんと母さんは俺に向き直った。


「あ、あぁ。どうしたんだ?」


父さんが聞いてくる。言うって決めてたけど、いざ言うとなると緊張するな…


「…父さん、母さん。俺、この家を出ようと思うんだ」


言った。遂に言った。俺の言葉を受けて父さんは


「…ん?あぁ、出かけるなら遅くなる前に…」

「そうじゃなくて」


俺は父さんの言葉に重ねるように言葉を放つ。


「…この家を出てアパートに住もうと思うんだ」


そう言うと数秒間の沈黙が流れた。そして父さんが口を開く。


「…ど、どうしていきなりアパートに住むなんて言い出したんだ?第一お金はどうする?」

「それはバイトをして貯めてる」

「住むアパートは…」

「もう決めてある」


また少しの沈黙が流れる。


「…どうして家を出たいの?」


母さんがそう聞いてきた。これは正直に言うか言わないか迷う。だが今の現状を理解してもらうためには言うしかないだろう。


「…その、あの2人、雅さんと杏寿菜さんとの関係が悪い、と言うかなんというか」


いや、濁していてはダメだな。


「俺、は。父さんが母さんと再婚した時からあの2人と仲良くしようと思ってきた。ずっと自分から話しかけ続けた。でも雅さんには話しかけるなと言われ杏寿菜さんはずっと俺のことを無視した。俺はもうそんな日々に耐えられなくなったんだ」


俺は思っていることを正直に言った。言ってしまった。これで俺はこの家に居られなくなったわけだ。もう後戻りは出来ない。


「だから俺はこの家を出る」


真っ直ぐに父さんの目を見据える。


「そう、か…結局仲良くなれなかったのか」

「…え?」


どういうことだ?まさか父さんは俺たちの仲が良くないことを知っていたのか?


「…父さん。俺たちが仲良くないこと知ってたの?」

「あぁ。だから俺たちは海外旅行に行ったんだ。この旅行中にお前たちが仲良くなることに期待してな」


…なんなんだよそれ。分かってたなら助けてくれよ。俺に全てを任せないでくれよ。どうして…どうして父さんはいつも俺が大変な時に助けてくれないんだよ…


「ねぇ、父さん。どうして父さんは俺たちの仲が悪いことを知っていたのに何もしてくれなかったの?」

「…お前なら何とかすると思ったんだ」


俺なら?俺ならなんでもできるのか?父さんが何も出来なかった間なんでもしていた俺なら?


「なんだよそれ…」

「え?」


思わず口に出てしまった。


「なんで…なんで俺が全部できると思い込んでるんだよ…俺は誰にも助けを求めたらいけないのか?父さんは俺を助けてくれないの?」

「ち、違う!そんなつもりで言ったんじゃ…」


もう父さんの吐く言葉全てが信じられない。俺は…俺は…なんなんだ?なんのために生きてるんだ?誰のために生きてるんだ?父さんのため?わからない。


「ごめん、父さん。俺やっぱりもう無理だ。夏休みが終わったらここを出ていくよ」

「ま、待ってくれ!考え直してくれ!」


父さんと俺が言い争っている所を見ている母さんは気まずそうな顔をしているだけで何も言わない。まぁそうだよな。自分の娘を悪く言えるはずないもんな。期待してなかったよ。


「…じゃ、それだけだから」


俺はそう言い残すと父さんが呼び止めるのを無視して自分の部屋に戻った。


俺は…








一体なんなんだ?

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