俺は死ね
全力で走る。息が切れて汗が吹き出し筋肉が悲鳴をあげる。だが俺は止まらない。止まれない。止まってはいけない。
たった1人。たった1人の大切な人の元へ向かうまでは止まれない。だから俺は走る。
どれだけ走ったか分からないが学校が見えてきた。学校が見えてきたことによって俺は限界を超えて更にスピードをあげる。
目の前が歪む。その歪んだ視界に未だに泣いている柚木が見えた。その姿をて胸が痛む。
「柚木!」
息も絶え絶えの状態で大切な幼馴染の名前を叫ぶ。
だが柚木は俺の呼び掛けに気づく気配は無い。だからもう1度大きな声で呼ぶ。
「柚木!!」
2回目の呼び掛けでようやくこちらを見た柚木は瞼を真っ赤にしていて鼻水だらけの酷い顔をしていた。
「え?ひ、づき?緋月なの?」
柚木は膝をガクガクと震わせながら俺の方へ近づいてきた。そんな柚木を見て俺は思わず柚木を抱きしめてしまった。あぁ、裕也には悪いことしたな…でも今くらいは許して欲しい。
「ひ、づき…ひづき…緋月緋月緋月!!」
「あぁ、俺だ。緋月だ」
柚木は俺の名前を呼び俺はそうだと肯定する。下校する生徒たちの目が痛いが今はそんなことどうでも良かった。
「なんで…なんで行っちゃったの?私が…私がどれだけ心配したか分かる?分からないでしょ?」
「…ごめん」
俺はただ謝ることしか出来なかった。それ以外にどんな言葉をかければいいか分からなかった。
「お願い、だか、ら…もう、もう私から離れないでよぉ…お願いだから…」
柚木は力なくそう言う。俺が…俺がここまで柚木を追い込んでしまった。何が柚木の悲しむ顔が見たくないだ。俺がそんな顔をさせてる張本人じゃないか。
「あぁ、約束する」
俺はそう言った。だが柚木はそれでは納得してくれなかった。
「約束じゃ…ダメ。誓って。もう離れないって…誓って」
柚木は今でもぐちゃぐちゃの顔で俺の目を見つめている。
「…誓う。誓うよ。俺はもう絶対に柚木の傍から離れない」
「絶対だよ?絶対にだよ?」
「…あぁ、絶対だ」
もう弱気なことを考えるな。そんなことだから柚木にこんな顔をさせることになったんだ。
「…今日は一緒に寝て」
「えっ!?そ、それは…」
さすがにそれはどうなんだ?
「…」
そう思ったが柚木の瞳が俺に有無を言わせなかった。
「…わかったよ」
「ん」
柚木は納得したのか泣き止み出していた。…柚木の体って小さいな。こんな小さな体で今まで俺を支えてくれていたのか…本当に俺はどうしようもない奴だ。こんなクズは今日で殺さないと。明日からはクズな俺が死んでいなければいけない。柚木を悲しませない俺にならなければ。
「おーい!緋月ー!どこだー!」
俺と柚木がいるところから少し離れたところで裕也が俺のことを探していた。
「あ!居た!」
そして裕也は俺を見つけると一直線に走ってきた。
「…裕也」
俺は裕也から少し目線を外した。今裕也と会うのは…気まずい。
「緋月!お前どこに居たんだよ!」
「…ちょっとな」
あぁこんな態度を取りたいわけじゃないのに。本当に自分が嫌になる。
「まぁいいや。そんなことより!お前人の話はちゃんと聞け!」
「え?な、なんのことだ?」
「お前俺と美鷺が付き合ってるとか思ってるだろ?」
「ち、違うのか?」
そう言うと裕也は大きなため息をついた。
「はぁ〜。当たり前だろ?第一、俺彼女いるし。しかも美鷺はおま…」
「わぁー!」
裕也が何かを言い終える前に柚木が突然大声を出した。裕也って彼女居たのか…
「そうだったのか…悪かったな…」
「おう!気にすんなよ!」
良かった。これで俺は裕也にあんな醜い感情を抱く必要が無くなった。本当に良かった。
「じゃあな!」
裕也はそれだけ言うと1人で帰ってしまった。
「…」
「…」
2人きりになった俺たちは急に気まずくなってしまった。こんな時何を話せばいいんだ?そんなことを思っていると柚木が声をかけてきた。
「…帰ろっか。私たちの家に」
そう言った柚木は俺の制服の裾を掴んでいる。その仕草にドキリとしつつも俺は返す。
「そう、だな」
そうして俺たちは横並びになりながら同じ家を目指す。
クズな俺は今日で死ぬ。明日からは柚木を悲しませない俺だ。
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