温かい場所
「お、お邪魔します…」
俺は柚木の家の玄関をくぐっていた。
「緋月君、そんなにかしこまらなくていいよ」
「そうだよ緋月。楽にしてて」
「あ、あぁ。ありがとう」
俺ってうつ病なんだな…うつ病…そっか。ほんとに邪魔なやつなんだな。俺が居たら柚木とその家族に迷惑かけるよな…お金が貯まったら1人で出ていこう。それが1番いいはずだ。
「緋月、お金が貯まったら…ふ、2人で暮らそうね」
柚木は頬を薄く紅らめてそう言った。
「…あぁ、そうだな」
これは柚木にバレないようにしないとな…
「緋月君の部屋はどうしようか…」
裕二さんがそう言って悩んでいる。
「あ、それなら俺はリビングで…」
「わ、私と同じ部屋でいいんじゃない?!」
さ、さすがにそれはまずいだろう。いくら親が居るからと言って年頃の男女が同じ場所で寝るなんて…柚木は少々危機管理能力が足りない。
「ゆ、柚木、さすがにそれは…」
「緋月君がいいのならそれでもいいけど…」
「裕二さん?!」
おかしい。絶対におかしい。
「い、いいんですか裕二さん。大切な娘を年頃の男と同じ場所で寝かすなんて…」
いいはずないだろ。
「まぁ…緋月君なら安心だよ」
俺への信頼が厚すぎる。どうなってんだ。
「ね?ね?お父さんもいいって言ってるんだし!」
…これ以上俺が駄々をこねたら迷惑がかかってしまう。
「…わかったよ」
まぁ俺が床で寝たら何とかなるか。
「よし、じゃあ緋月君。改めてようこそ我が家へ」
裕二さんが俺に向かってそう言ってくれる。
「ここが今日から君の家だ。何も遠慮することは無い僕たちに頼って欲しい。いいね?」
あぁ、こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか。いや、それほど前じゃなかったな。本当に裕二さんと柚木は親子なんだな。
「…ありがとう、ございます」
俺は自然と目頭が熱くなるが何とか涙を堪えた。
「…緋月君を説得してあげたんだから頑張りなよ」
「っ?!お、お父さん!」
ん?なんの話をしているんだ?
「なに騒がしくしてるのー?」
俺たちがそんなふうに話しているとリビングから柚木によく似た綺麗な女性が歩いてきた。
「由紀ゆきさん…お久しぶりです」
由紀さん、柚木の母親だ。
「え…もしかして緋月君?」
「そ、そうですけど…」
あれ?もしかして柚木たちから何も聞いてないのか?なら俺はこんなところには居られない…
「きゃー!久しぶりー!こんなに大きくなっちゃって!」
由紀さんはそう言いながら俺に抱きついてきた。
「え、え?!ゆ、由紀さん?!」
「もう、由紀さんなんて言わないで小さい時みたいに由紀ちゃんって呼んでよー」
俺が動揺していると
「お母さん!離れて?!緋月が困ってるでしょ?!」
何故か柚木が俺以上に動揺していた。
「何よー…久しぶりの再会だって言うのに…」
「あ、あはは…」
由紀さんは何も変わってないな…由紀さんは小さい時から本当に俺に良くしてくれた。ちょっと過保護すぎる様な気もするけど…
「2人から話は聞いてるわ。…大変だったわね。今日からは何も気にすることなく過ごしてね。ここがあなたの新しい家になるんだから」
どうして…どうしてこの人たちはこうも俺の心を救ってくれるのだろう。
「…ありがとうございます…ありがとうございます…」
俺は泣き出してしまった。
「え?え?わ、私何かいけないこと言っちゃった?!ご、ごめんね?!ごめんね?!」
由紀さんはもう一度俺を抱きしめてそう言った。
「ち、ちが…違うんです。ただ…本当に温かくて…」
そう言った俺を見ていた由紀さんも何故か泣き出してしまった。そしていっそう強く抱きしめて
「もう、大丈夫だからね。もう苦しまなくていいからね」
そう言ってくれた。
「緋月君はもう頑張ったんだよ。だからちょっと休もう?」
「…はい」
最近涙脆くなってる気がするな…
ここは
温かい。
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