休日

「バイトって言っても案外何とかなるもんだな」


空が紅く染まった頃、俺は柚木と隣合わせになって歩いていた。バイトが終わり今帰宅している途中だ。


「緋月は家の事全部してたから楽かもしれないけど私はもうヘトヘトだよ…」


今日でバイトも1週間ほど終わった。最初はどうなるかと思っていたがバイト先の人はみんないい人だった。高校生である俺たちを見下したりすることなく平等に接してくれた。そんなことを嬉しく思ってしまう。


「でも明日はようやく休みが出来たから良かったよー」


柚木がほっとした顔をしながらそう言った。


「ああ、そうか。明日は店が定休日だから俺たちのバイトも無いのか」


となると明日の予定は何も無くなってしまうな…あの家にいるのは辛いな…適当にどこかで時間を潰そう。


「あ、あのさ…」


そんなことを考えていると柚木が声をかけてきた。


「ん?どうした?」

「明日…休みじゃん?緋月、何か予定ある?」

「いや、何も予定は入ってないな。家に居るのも嫌だしどこかで時間を潰そうと思ってる」


俺はさっきまで考えていたことを柚木に伝えた。すると柚木は何故か嬉しそうな顔をした。表情にこそあまり出ていないが、長年の付き合いである俺にはわかった。柚木は嬉しいことがあると瞬きが多くなる。逆に悲しいことや嫌なことがあったら瞬きが少なくなる。本人は気づいていないようだが俺は言うつもりは無い。何気に便利だからな。


「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあさ、私とどこか出かけない?」


柚木と出かける…いいな。久しぶりだ。


「いいぞ。それでどこか行きたいところとかあるのか?」


俺は柚木にそう言った。


「んー、いくつか候補は考えてたんだけど遊園地に行きたいかな」

「遊園地?」


別にそれはいいのだが柚木ってそんなに遊園地が好きだったか?特にそんな記憶は無い。あるのは小さい頃、柚木と一緒に行っていたことくらいだ。


「うん。久しぶりに緋月と遊園地に行きたいなって」

「そうか。俺は大丈夫だ」

「そ、そっか。じゃあどこに集合する?」


あ、また瞬きが多くなった。


「あー、俺が柚木の家まで迎えに行こうか?」


俺と柚木の家はそんなに離れていない。歩いて10分で着くほどの距離だ。


「え?いいの?」

「あぁ、何時に行けばいい?」

「えっと…じゃあ9時に家に来てくれる?」

「わかった」


9時か。寝坊しないようにしないとな。


「…ふふ、楽しみだね」


っ、?な、なんだ?今の柚木の微笑をみた途端、心臓の鼓動が速くなった。


「緋月?」

「あ、あぁ、そうだな」


柚木がキョトンとした顔で俺の事を覗き込んできた。もう心臓の鼓動は元に戻っていた。なんだったんだ?


「じゃあね」


いつの間にか俺たちが分かれる道に着いていた。


「あぁ、また明日」


俺たちは短く挨拶をしてお互い帰路に就いた。


「…楽しみだな」


俺は久しぶりに友人と遊べることに年甲斐もなく心踊っていた。

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