思い通り

私は裕福な家庭で育った。望めばなんでも叶うし言うことを聞いてくれる。だから全てが手に入ることが当たり前だと思っていた。


家を出てからはお世辞にも裕福だとは言えない暮らしをしたが、愛すべき人を見つけた私はそんなことどうでもよかった。この暮らしを続けることができるのならお金なんて要らない。


私とあの人の間に子供が出来た。名前は雅と杏寿菜。可愛い可愛い私の宝物。この命に変えてでも守らないといけないもの。


幸せだった。


「ただいま…」

「おかえりなさい。あなた」


あの人は普通の会社で働いている。給料は良くも悪くもない。でもあの人は日に日にくたびれた顔をしていくようになった。私はあの人の元気な顔が好きなのに。どうしてそんな顔をしているの?私たちとの生活が楽しくないの?


「…ご飯にする?」

「ごめん…今日はもう寝るよ…」

「は?」


この男は今なんと言った?私の作ったご飯を食べずに寝る?そんなの許されるわけが無い。


「食べて」

「俺も食べたいんだけどそれ以上に眠気が…」

「言い訳しないで」

「…分かったよ」


あの人は言えば分かってくれた。なんだ、ちょっと強く言えばちゃんとわかってくれるんだ。


そうわかった私は次から少し強く言うようになった。そうすればあの人はわかってくれる。そうすることが私たち夫婦にとって1番いい形なんだ。


ある日、あの人の仕事が休みの時、あの人はいつも起きてきていた時間に起きて来なかった。…何してるの?


私はあの人を起こしに行った。


「起きて」

「…んん。今日くらい休ませてくれないか?疲れてるんだ」


確かにこの人は仕事から帰ってきて家事を手伝ってくれている。なら休みの日も手伝うのが普通なんじゃないの?


「起きて」

「…ごめん。今日だけは頼むよ」


なんで?なんで言うことを聞いてくれないの?


「起きて」

「頼むよ…」

「どうして?!どうして言うことを聞いてくれないの?!」

「ゆう、こ?」


あの人は困惑している。だけどそんなの関係ない。


「いいから起きて」

「正直、君がそんな人だとは思わなかった」


何、それ。


「何よそれ!」


その日はあの人とは会話をしなかった。


それから数日して表面上だけはまた元に戻った。


買い物をしていると見覚えのある人影を見つけた。


「…何、してるの?」


私はそう呟いてその人物に近づく。


「ん?優子?どうしたんだ?」


あの人は私の存在に気がついてそんな呑気な声をかけてきた。この状況でよくそんな呑気なことが言えるわね。


あの人は女の人と子供と一緒に居た。それも楽しそうに話して。


「何してるの?」


私はそう問いかける。


「あぁ、高校の時の同級生が居たからちょっと話してたんだよ」

「あれ?奥さん?」


子連れの女が私を見てそう言う。


「あぁ、そうだよ」


私は何も聞こえていなかった。あの人が浮気をしているなんて…しかも子供まで作ってるなんて…許せない。


「…ねぇ、どうして浮気したの?」

「…え?浮気?」


あの人は困惑しているが私は続ける。


「どうして?どうしてなの?」

「浮気って…なんのことを言ってるんだ?」


あの人はまだとぼけている。


「…もういい。私たち別れましょう」

「は?ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

「いいえ待ちません。私たちはもう終わったのだから」


もうこんな人の声なんて聞きたくない。私は家に帰って娘たちに事実を伝えた。


「…あの人は浮気してたの。しかも子供まで作って…最低のクズよ。だから私たちはこの家を出るわ」

「お父さん…浮気してたの?」

「そうよ。どうしようもないクズなの」

「ほ、本当に?」

「本当よ。さぁ、行きましょう」


そして私たちは家を出た。私の思い通りにならないならもう要らない。


私は思い通りになる家族を作る。


私は冷たいコンクリートの地面の上でそんな過去のことを思い出していた。


何が悪かったんだろうなぁ…雅と杏寿菜に嫌われて…もう…いいや。


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これで本当に終わりです。

こんな駄文にお付き合いくださりありがとうございました。

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え、家族じゃないんですよね? はる @Haruto0809

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