え、家族じゃないんですよね?

Haru

再婚相手とその姉妹

「私たち、あんたのこと家族だなんて思わないから」

「…私に話しかけないでください」


今日から家族になる目の前の姉妹にそう言われて俺の頬は引き攣っていた。


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「緋月。父さん、再婚しようと思うんだ」


ある日、学校から帰ってくると父にそんなことを言われた。


「…そっか。やっと乗り越えれたんだ?」

「ああ、今まですまなかったな」

「そんなの気にしないでいいよ」


父さんは母さんが事故で亡くなって少しの間、放心状態だった。ご飯は作れないし食べられない。家事も仕事も何も出来ない状態だった。そんな父さんがようやく母さんの死を乗り越えられたのだ。それを俺が祝福しないでどうする。


「おめでとう」

「…いいのか?こんないきなり」


もちろんだ。何も反対する理由なんてない。父さんが選んだ人なんだ。きっといい人に決まってる。


「俺、父さんには幸せになって欲しいんだ。だから反対する理由なんて無いよ」

「緋月…お前…」


父さんは険しい顔を崩して涙を流していた。顔だけ見たらめちゃくちゃ怖そうなんだけどな…案外涙脆い。


「あぁ、そうだ言い忘れていた」


父さんがそう言った。なんだ?


「再婚相手の女性は2人の子供が居るんだ。どっちも女の子で長女は大学1年生で次女は高校1年生なんだ。仲良くしてくれよ」


…まぁ最初は抵抗があるかもしれないが何とかなるだろう。この時の俺はそんなふうに軽く事態を捉えていた。


「わかったよ」


どんな人達なんだろうな。


それから1ヶ月後、父さんは再婚した。そして再婚相手の女性が今俺たちの住んでいる場所に引っ越してきた。


父さんと一緒に椅子に座って再婚相手の女性を待つ。どうやら再婚相手の女性の名前は優子さんと言うらしい。そして姉妹の長女は雅、次女は杏寿菜と言うらしい。緊張するな…


そんなことを考えていると玄関のチャイムが鳴った。来た。父さんが立ち上がり玄関に向かった。そして玄関で少し話した後にリビングに戻ってきた。戻ってきた父さんの後ろには美少女が3人並んでいた。


恐らく母親であると思われる優子さんはおっとりとしたタレ目でふんわりとした髪の毛を肩下まで伸ばしている。20代だと言われても信じてしまうほどに美人だ。姉妹の方もすごい。どちらが姉でどちらが妹か分からないが1人はツインテールに猫目で肌にシミひとつない美少女。もう1人は艶がある黒髪を腰まで伸ばして気だるそうな目をしている。こちらも肌にシミなんてひとつもない美少女だ。


マジか…こんな美人が来るなんて聞いてないぞ。上手くやれるだろうか…


「あら、あなたが緋月君ね?今日からよろしくね?」

「あ、は、はい。そうです。よろしくお願いします。優子さん?ですよね?」


俺は確認するようにそう聞く。


「そうよ〜。でも優子さんはちょっと寂しいかな。これから家族になるんだからお母さんって呼んで欲しいな」


うわ、この人めちゃくちゃいい人だ。


「え、えっと…よろしくお願いします。母さん?」

「キャー!何何?!緋月君かわいー!」


優子さん、母さんは体をくねくねと捩りながらそう言ってくれた。俺は内心ほっとしていた。これなら何とか上手くやっていけそうだ。実は少し不安だった。これから本当に上手くやっていけるだろうかと。だがそれは要らぬ心配だったようだ。


「…私は長女の雅。よろしく」


自分が長女だと言ったのはツインテールの美女の方だった。


「あ、えと、よろしくお願いします」


ということは黒髪ロングの方が妹だな。


「私、杏寿菜。よろしく」

「よ、よろしく」


俺は高校2年生だか雅さんは姉、杏寿菜さんは妹になる。こっちは心の壁を感じるな。まぁ当たり前だろう。いきなり歳の近い男が家族になるのだ。そう簡単に心を許せるわけが無い。だがまぁなんとかやっていけるだろう。


「よし、自己紹介終わったな。それで…その…悪いんだが…」


父さんが俺の方をチラチラと見ながら何かを言いたそうにしている。


「…いいよ父さん。行ってきなよ」

「っ!す、すまない。ありがとう」


俺は父さんの考えていることが大体わかる。どうせ母さん2人になりたいのだろう。ならどこかへ行かせてあげるべきだ。


父さんは嬉しそうに母さんと目配せして家から出ていった。ほんと父さん楽しそうだったな。あんな父さん久しぶりに見た。父さんの嬉しそうな顔を見たらなんだか俺も嬉しくなってしまった。少し感傷に浸っていると


「ねぇ」


長女の雅さんが声をかけてきた。


「は、はい?」


俺は少し緊張しながら聞き返す。


「私たち、あんたのこと家族だなんて思わないから」

「…私に話しかけないでください」


目の前の姉妹にそう言われた。この時の俺の表情はかつてないほどに引き攣っていただろう。


「…そ、そんなこと言わなないで仲良くしましょうよ」


俺は引き攣った顔のまま笑顔を無理やり作りできるだけ明るい声でそう言った。


「母さんの前では仲いいフリしてあげる。でもその他ではあんたとなんて話さないから」

「…」


雅さんはそう言って杏寿菜さんは黙っている。ごめん父さん。やっぱりなんともならないかもしれない。

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