家族としての絆
次の日の朝7時30分頃、玄関のチャイムが鳴った。きっと柚木が来たのだろう。
俺は言われた通り玄関に向かった。そして扉を開ける。そこには柚木と…
「裕二さん?」
裕二さんも柚木の隣に並んで立っていた。
「おはよう。緋月君」
「お、おはようございます」
どうして裕二さんがここに居るんだ?そう思って2人の後ろに目を向けるとそこには裕二さんの車があった。柚木の家まで歩いて十数分だ。わざわざ車で来る必要なんてないと思うが…
「じゃ、早く荷物持ってきて」
柚木が俺にそう促す。
「あ、あぁ…」
俺は言われたまま荷物を取りに言っている途中、あることを思い出した。
「…あ、父さんに今日家を出ること言ってない…」
異物が居なくなると言っても何か一言あった方がいいだろう。そう思った俺は今日仕事が休みでリビングで椅子に座っている父さんに話しかけた。
「…父さん」
「な、なんだ?」
父さんに話しかけても前みたいな温かい雰囲気はない。もう本当に壊れてるんだな。母さんと姉妹2人はリビングに居なかった。多分母さんは買い物にでも行っているのだろう。姉妹はまだ寝ているんじゃないだろうか。
「俺、今日でこの家出ていくよ」
「っ?!ど、どういうことだ?」
父さんは目に見えて狼狽えている。
「…そのままの意味だよ。俺は今日この家を出ていく」
「ま、待ってくれ!な、何も出ていく必要なんてないんじゃないのか?」
出ていく必要…?本当にあるのか?それともないのか?もう俺には分からない。だって俺は必要のない人間なのかもしれないのだら。
「…」
「な?ま、まだ間に合うはずだ。もう一度家族としての絆を繋いでいこう」
「家族としての…絆」
そんなもの今更あるのか?
「緋月ー?」
外から柚木が俺を呼ぶ声がする。柚木。いつも俺を助けてくれる存在。隣にいて欲しい存在。確かに俺にとって柚木は大切な存在だ。でも柚木にとって俺は?大切なのか?必要なのか?やっぱりただ邪魔なだけなんじゃないのか?幼馴染として仕方なく助けてるんじゃないのか?
「俺…は…」
「残ってくれ。緋月」
「俺…は…」
俺なんてどこにいてもいなくても同じか…それならまだ必要としてくれている父さんのそばに…
「いい加減にしなさい!」
「…え?」
そう声を上げたのは裕二さんだった。
「ゆ、裕二さん?」
父さんは困惑している。俺も困惑していた。
「総司さんは…あなたは自分の子供のことをなんだと思ってるんですか?!緋月君はあなたの半身じゃない。ましてやなんでもやってくれるお手伝いさんなんかじゃないんだ!それをあなたは自分が楽になりたいがために緋月君に負担をかけて…あなたは一人間としても父親としても失格だ」
俺は裕二さんのそんな姿、今まで見たことがなかった。いつも優しく笑顔が絶えない裕二さんのそんな姿を。
「…あ、あなたに何が分かるって言うんですか?!」
父さんも声を上げてそう言う。
「確かに僕はあなた達家族の内情を知りません。ですが、緋月君が今普通の状態じゃないことは分かる」
「何を言って…」
「このまま話していても埒が明かない。緋月は家で過ごしてもらいます。行こうか、緋月君」
「え…でも…」
俺は父さんと裕二さんの2人を交互に見る。
「…緋月君、君は…いや、でも…やっぱり来ておいて良かった」
裕二さんは何かブツブツ呟いている。
「とりあえず行こう」
裕二さんは俺の手首を握って歩き出した。
「ひ、緋月!」
父さんがそう叫ぶが裕二さんは止まらない。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
俺はただ謝ることしか出来ない。
そのまま裕二さんに車の後部座席に乗せられた。前には柚木が座っている。
「緋月…」
柚木は俺の顔を見て心配そうな表情をしている。俺は…俺は…?
「緋月君」
車が走り出すと裕二さんが俺に声をかけてきた。
「は、はい?」
「…今から行きたいところがあるんだけど…ちょっと寄ってもいいかな」
「は、はい。大丈夫です」
そう言うと裕二さんさ礼を言って車を走らせ続けた。そしてついたのは…
精神科だった。
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