感情

「ねぇあなた。あの3人だけ置いてきて本当に良かったの?」


海外に向かう飛行機の中で優子が総司にそう言った。


「あぁ、あの3人、まだぎこちないんだよ。俺は血の繋がっている緋月だけを家族だと思っているわけじゃない。優子が連れてきたあの2人のことだって本当の娘のように思ってる。だからそんな子達が仲良くなるために俺たちは少し邪魔なんだよ」


そう、この海外旅行は総司が優子に持ちかけたものだった。


家の中でのぎこちなさを無くしたいという思いからこの旅行を計画した。総司と優子が居るとあの3人の距離は縮まらないままだと総司は思っているのだ。


家に残してきた子供たちの生活は特に気にしていなかった。なぜなら緋月が居るから。自慢の息子ならなんともないと総司は思い込んでいる。それが彼にプレッシャーをかけ疲弊させているとは彼は知らない。


「あなた…」


そして再婚して間もない優子もそれに気がつくはずがなかった。


優子は優しく総司の手を取った。


これはあの子たちのため。口ではそう言っているが気づいているのに自分で仲を取り持ったりしない辺りこの男がいかに息子に頼っているのかと言うことがわかる。


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朝、スマホに設定していたアラームで目を覚ます。


「…」


最近寝ても疲れが取れない。なんかジジくさいこと言ってんな。


「…学校行く準備しないと」


俺は寝ていたベッドから起き上がりリビングに向かった。そこには誰もいない。なんで誰も居ないんだ?あの2人

ともかく父さんと母さんは?


ダメだ。本当にどこにいるのか分からない。この家から2人の気配が全くしない。どこかに買い物にでも出かけているのだろうか?


朝食は…まぁないよな。作ってくれる母さんが居ないのだから。俺も作ろうと思えば作れるが時間が無い。なら今日はもう朝食無しでいいか。そう思い干してあった制服を手に取り着始めた。


そこでリビングの扉が開いた。


「…あんた何してんの?」


そこに立っていたのは雅さんだった。


「何してんの…って、学校へ行く準備をしてるんですけど…」


何を当たり前のことを言ってるんだ。あなたも早く行かないと遅刻…ああこの人は大学生だった。今日は講義が昼からなのか?


「あんた今日から夏休みじゃないの?だからお母さんとお父さんが海外旅行に行ったんでしょ?」


…あぁそうだった。また忘れていた。じゃあゆっくり出来るな。


俺は着ている途中の制服を脱ぎ始めた。


「ちょっ」


雅さんが頬を赤らめて何かを言いたそうにしていたが何を話そうとしているのかなんて気にならない。


「あー、ご飯…朝はいいか」


なんだかお腹が空いていない。なら食べなくてもいいか。俺は自分の部屋に戻りもう一度ベッドに体を預けた。そして瞼を閉じて意識を手放した。


次に目覚めたのは12時を少し過ぎた頃だった。さすがにこの時間になるとお腹が空く。俺はベッドから立ち上がり再びリビングに向かった。そこには雅さんと杏寿菜さんが居た。どっちもいるのか…


俺は少しだけ残念に思ったがもう気になんてしてられない。


何か作ろう。


俺はキッチンの上の棚からフライパンを取り出した。今日はチャーハンでも作るか。適当に作ったチャーハンを皿に盛り付けてテーブルの上に置く。


スプーンを持ちチャーハンを口に運ぶ。うん、まぁ美味しいんじゃないだろうか。そんなことを思いながら黙々と食べていると2人が近づいてきた。


「…ねぇ、私たちご飯無いんだけど」

「だけど」


雅さんさんがそう言い杏寿菜さんがそれに同調する。


「…そりゃあ1人分しか作ってないですからね」


何を当たり前のことを言っているのだろうか?


「私たちの分作ってよ」

「てよ」


はぁ?なんなんだこの人たちは。自分の都合のいい時だけそんなこと言って来やがって…


「…どうして俺が作らないといけないんですか?」


気づくと俺はそんなことを口にしていた。こんなこと言うつもりなかったのに。


「ど、どうしてって…そ、そんなの家族にご飯を作るのなんて当たり前でしょ?」

「でしょ?」


は、ははっ!あんたらがそれを言うのか!家族か!俺たちは家族なのか!はは、はははっ!


「家族なんですか?俺たちって」

「な、何言ってんの?当たり前でしょ?」

「でしょ?」


あんたら初めて会った時に俺になんて言ったか覚えてないのかよ…


「え、家族じゃないんですよね?」

「は?な、なんでそうなるのよ」

「のよ」


本気で言ってるのかこの人たち…


「だってあなた達初めて会った時に俺に言ってきたじゃないですか。私たち、あんたのこと家族だなんて思わないから、私に話しかけないでください、って」

「そ、それは…」

「…」


なんだ?言い訳があるのか?


「い、いつまでもそんなこと気にしてるんじゃないわよ」

「わよ」


…あぁもうダメだ。耐えられない。


「はっ、ははは!もういい、よくわかった。俺はお前らのことなんて家族だと思ってない。だから俺にはもう話しかけないでくれ。頼む。俺に関わらないでくれ。もう限界なんだよ。お前らのその顔見るのは。その声を聞くのは」


俺は話し出してから後悔した。だがもうダメだ。止まらない。2人は口を開けたまま呆けている。


「都合のいい時だけ家族ヅラしやがって。自己中にも程があるだろ。大学生と高校生にもなって何も出来ないのかよ。この先生きていけないぞ?まぁもう俺には関係の無いことだけどな。父さんと母さんの前以外で俺に話しかけてくるなよ。ほんとに頼むから」


俺は全て言い切った。後悔はしているが心は幾分か軽くなった。


「…あの」


雅さんが声をかけてきたので俺は食べていたチャーハンを残しそのまま部屋に戻った。もういいんだ。これでいいんだ。

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