後の祭り
あいつが家に帰ってこなかった日から数日たった。たかが数日。なんともない日々だった。本当になんともない日々。
朝起きてもあいつから挨拶は帰ってこない。…せっかくご飯作ってくれたお礼言おうと思ってたのに。あの日、あいつがどこかに行っていた日、冷蔵庫に2人分の朝ごはんが入っていた。私と同じ杏寿菜は2人でそれを食べた。美味しかった。だからそう伝えようとしたのに帰ってきたあいつはお母さんとお父さんと何か言い争っていたように聞こえた。
その次の日からあいつは家に帰って来なくなった。さっきなんともない日々を過ごしたと言ったが少しだけ訂正がある。2つだけ。
1つはお父さんが目に見えて元気がない。あいつが帰ってこなくて落ち込んでるのかな…2つ目は日が経つごとにお母さんの機嫌が悪くなっていっている。あの時と同じだ。あのクソ男と離婚したばかりの頃の母さんと同じ。
私はあの頃のお母さんは嫌いだ。自分の考えを相手に押し付ける。でも普段はとてもいいお母さんなのだ。それこそ文句のつけようのないくらいに。
不機嫌なお母さんを見てお父さんもどこか虫の居所が悪そうな顔をしている。
それは私たちも例外ではなかった。日に日にお母さんとの会話が減っている。話しかけても低い声で応えられるから怖くて話しかけにくい。それは杏寿菜も一緒だった。ただでさえ口数の少ないあの子が不機嫌なお母さんに話しかけるなんて無理な話だった。
それもこれもあいつが出て行ったせい…いや、それは違う。出ていく最初の原因を作ったのは私たちだ。これはいわゆる自業自得と言うやつではないだろうか?
いくら自分の本当の父親があんなのだったと言っても何も知らない他人に当たるべきでは無かった。あの時の私はそんなことを考えている余裕が無かった。幼稚で浅ましい。今あの頃の自分に何か言ってやれるのだとしたらよく考えて発言しろと言っただろう。そんなこと考えてももう後の祭りだ。
どうしよう。何か家のことを手伝えばいいかな?でも私は家事なんて出来ない。…あいつとは大違いだ。
自分が出来ないことを理解しているのに少女は行動しない。
あぁ、本当になんであの時あんなことしか言えなかったんだろう。自分があんなことを言われたらどうだ?間違いなく腹が立つし関わらないでおこうと思うだろう。でもあいつはそれでも関わってきた。それが何故なのかは分からないが私はそれを払い除け続けた。
だから今の現状がある。だから後悔している。後悔したってなんにも変わらないのに。
私があいつを連れ戻したら家族は元に戻るかな?…でもあいつが今どこに居るのか分からないし…それに私が話しかけたって相手にされないのは分かりきっている。そう。無駄。無駄なんだ。私はそう思い込むことしか出来なかった。
少女は未だに行動を起こすことは無い。それが保身のためだと理解しながらも。
仕方なかったんだ。家族がこうなったのは仕方なかったんだ。
きっとそうだ。
そう思っていないとおかしくなってしまう。
だから少女はまた間違える。
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